スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

1、過ちの始まり 

 先書き。この作品は毎週水曜日更新です。

―――――――――――――――――――――――――――――――――


 一つになった世界の名。『フォード大陸』
 そこで全ての生物は暮らす。まぁ、全ての生物が暮らすといっても、人間を中心とした暮らしには間違い無い。
 しかし、そんな『フォード大陸』に新たな種が生まれた。額に刺青のような紋章があり、腕と脚と背中に多少の鱗がある。その点以外は人間と同じと思ってもらえればいい。言語も『フォード大陸』の人間すべてに伝わる言語だ。人間はその種をダイナ族と呼んだ。
 初めは少数だったダイナ族。しかし、その人間に勝るとも劣らない知能。人間よりも発達した運動能力。それはもう、並みのダイナ族でもオリンピック金メダル選手以上の運動能力である。素晴らしいものだ。
 そんなダイナ族だからこそ、人間世界の生き方を早い段階で吸収し、溶け込んでいくことができ、数も着々と繁殖させていった。人間もそんなダイナ族に好印象を受け、共に世界を繁栄させていこうじゃないかという勢いで打ち解けていった。
 だが、しばらくしたある日。世界を揺るがす事件が起きる。
「殺したぞ! ダイナ族の男が……、人間を殺したぞ!」
 人間は叫んだ。ここで人間の本能が目を覚ます。 ダイナ族は人間を殺した。人間とは違う種が人間を殺した。ダイナ族……敵。
『チャンスだ。これできっかけが出来たではないか。さぁ、争え。人間よ。ダイナ族と争え』
 ダイナ族が人間を殺したこの事件。当然、世界全土に広まる。広まるにつれ、本能が人間に伝わる。そして、またたく間にダイナ族の男は殺人で捕まった。それは、警察のような生易しいものではない。世界を牛耳るものが住む城。つまり、世界の中心部。その名は『コンセクト』
 これ程の大事件。人間全てがこの事件に注目した。『コンセクト』の判断によってはまた争いが、長らく待ち続けた争いがまた起こるのだから。ダイナ族の男は『コンセクト』に連行され、徹底的に調べられた。その結果、『コンセクト』の中でも更に中心的な間、ヒドラーの間へ連行された。これは重罪の匂いがプンプンする。
「ヒドラー様。このダイナ族について、ご報告にあがりました……。」
 どれほどキツい拷問を受けたのか……、連行されたダイナ族の男はピクリとも動かない。そんなダイナ族の男を連行したヒドラーの部下がヒドラーにそう告げる。しかし、その声色とソワソワした態度は明らかに冷静ではない。
「ククク……、そう焦るな。ゆっくりと報告せい。最もいけないことは焦ることにより現れる報告漏れだからのぉ」
 ヒドラーは部下と違いとても冷静だ。堂々とした長い白ひげを撫でながら、シワたっぷりの笑顔でそう答える。さらには、どデカイ椅子に悠々と座る余裕っぷり。どんな報告でもこいという心構えである。このヒドラーの答えに、部下は少し落ち着きを取り戻した。
「はっ! では、ご報告させていただきます。このダイナ族、いや、この男。人間でございます」
 なんと、この事件。全ては一人の人間の欲望だった。この男はもう我慢の限界だった。争いの衝動を抑えることが出来なかったのだ。しかし、そんなときに現れた、自分と同じような容姿、知能。力は武器で補える。男は考えたのだ。ダイナ族になりすまし、人間を殺そうじゃないかと。また、あのときのような争いを引き起こそうじゃないかと。そのために、男は紋章を書き、鱗に似せたメイクを仲間に頼み……、実行。そして今に至るというわけだ。
 そんな部下の報告に、ヒドラーはニヤッとした笑みを見せながら拳銃をスッと取り出す。
「ヒッ、ヒドラー様! 落ち着きになって!」
 部下は恐怖した。このままじゃ殺される。お願い、殺さないで。そんな気持ちでヒドラーをなだめた。しかし、その声はヒドラーには届かない。ヒドラーは勢いよく拳銃の引き金を引いた。
 部下は眼をギュッと閉じ、死を覚悟した。
「えっ……?」
 しかし、部下は意識がある。体が動く。血が流れていない。不自然なこの状況に、思わず声を出した。
「ククク……勘違いはいかんねえ君」
 死まで覚悟した部下をあざけ笑うヒドラー。散々あざけ笑った後、何が何だかまだ分かっていない部下に、横を見るように伝えた。
「ヒッ、ヒドラー様……、いけません。まだ、彼の処罰は決まっていないというのに!」
 そう。撃たれたのは部下ではなく、捕らえられた男。ヒドラーは、初めから捕らえられた男を殺す気でいたのだ。
「わかっとらんなぁ。処罰は今決まったではないか。わしは王だ。この世界を統べる王。その王がこの男を死刑だと決めたのだ。これ以上の決まりはない。そうじゃろ?」
人を殺したというのにニタニタとした笑みを浮かべながらそう言うヒドラーに、部下はまた恐怖を感じた。
「ククク……、納得しとらんという顔じゃのぉ?」
「い、いえ! 滅相もございません!」
 ここで反発すれば待つのは死のみ。精一杯声を上げ否定する。
「そう焦らずともよい。お前は『コンセクト』の人間全てに伝えるのだ。ダイナ族の犯行だと思われた殺人は実は人間の仕業。この事実、どこにももらしてはならんとな。もらせば一族すべて、何の慈悲もなく死じゃ。そう伝えい」
 この時、ヒドラーから笑みが消えた。笑みを浮かべるヒドラーも不気味だが、笑みの消えたヒドラーもまた不気味だ。
「ハッ! 今すぐに!」
 部下は大慌てでヒドラーの間を去った。
「ククク……、これでダイナ族を滅亡させるきっかけが出来たわい。人間より優れた生物……、この世には必要ないわ」
 このヒドラーの言葉は本当のこととなった。
 ヒドラーの命令により、人間を殺したダイナ族を敵とみなし、ダイナ族の大量虐殺が始まった。いくら基本能力が人間より高いダイナ族といっても、武器をもたれると敵わない。それに、数にも大きな差がある。ダイナ族が逃れられる見込みなど一つも無かった。人間が誇る軍隊に虐殺されていくダイナ族。
「さぁ、てめえで最後だぜ? 恨むなら人間を殺した同種を恨みな」
 躊躇無く、泣き叫ぶダイナ族に向かって引き金を引いた。こうして、人間の手によりダイナ族は滅亡した……かに思えた。



             もしよろしければ投票お願いします


             こちらも投票お願いします


             ネット小説ランキングに投票お願いします。


             

スポンサーサイト

2、過ちの末 

 もしかするとこのまま絶滅してしまった方が平和に終われたのかもしれない。知らなかった方が良かったのかもしれない。しかし、ダイナ族は知ってしまった。その高い知能から、人間の行動を計算してしまった。
『あれは我らではない。あれはすべて人間の仕業。我らは死ぬことはなかった。我らは人間の欲望の犠牲となったのだ』
 ダイナ族は魂となって嘆いた。人間は故意に絶滅させた。あれだけ好意的に接していたのにもかかわらず、ダイナ族は人間の身勝手な行為により絶滅させられた。その嘆きは怨念へと変わる。そしてその怨念は共鳴し、一つの集合怨念体へと変化する。集合怨念体はさらに変化を続け、ついに……、一つの生命となった。
 生まれついたは、世界の片隅と呼ばれる、人一人住まぬ場所『デービグロー』生まれたは、ダイナ族の集合怨念体。事実上、ダイナ族最後の生き残り。
「私はディーナ。人間に復讐する者」
 ディーナは自分の体をまじまじと見つめる。鱗があり紋章がある。自分が間違いなくダイナ族であることをすぐに理解する。次に、人間を殺害するための道具を探す。
「これが、いいですわね」
 『デービグロー』に落ちていた槍を発見。これを自身の武器とすることにした。そしてディーナは気づく。この『デービグロー』には数え切れない程の怨念が飛び交っていることに。
「これは全て人間への……、私が救って差し上げましょう」
 『デービグロー』に飛び交う数え切れない程の怨念を全て吸収するディーナ。そして、怨念を吸収したディーナの頭の中に、同じ言葉が何度も木霊する。
『人間、人間。人間!! 殺す、抹殺。人間!!』
「みんな生まれたがっている……。分かりました。今、生んで差し上げます」
 ディーナは、怨念一つ一つから人間への復讐心を感じ取った。みんな私と同じ。そう感じ取ったディーナは、怨念一つ一つを生命に変えた。怨念から生まれる生命。しょせんそれは怨念という黒い集合体ではあるが、それはもう無数で数え切れない。しかし、この怨念たちにも共通点があった。
「あなた方は!」
 みんな生物なのだ。犬、猫、鳥、馬……etc。怨念から様々な生物が生まれる。そう、彼らはみんな人間に不当な理由で殺された生物たち。彼らはみんな人間を恨んでいる。彼らはディーナが生んだのではない。ディーナはただ生まれる一つのきっかけに過ぎない。ディーナだって人間がいなければ生まれなかった。すべては人間が生んだのだ。人間に対する生物の怨念。そして、ダイナ族の執念が新たな生物を生んだのだ。
 そして、その生まれた無数の生命の中でひと際目を引く生物が三つ。その三つの生命には知能があり、言葉も話せる。性別なんてものもない不思議。力も他の怨念生物と比べ強大。だが、頭のいいディーナはすぐに気付く。きっとこの三匹には自分と同じダイナ族の血が混ざった怨念生物、混合種。
 ディーナは彼等に歩み寄る。ディーナもその三体も一つも警戒などしなかった。どちらも同じ血が混ざっていることで、本能的に仲間意識が芽生えているのであろう。それにその三体にとって、ディーナは自分たちを生みだしてくれた恩人。そして、人間抹殺を志にする同志。そんなディーナを警戒などするはずがない。ディーナは快く迎えられ、何を言うことなく自己紹介を始めた。
「俺はホーク。美しい羽だろ!」
 その姿は正に大空へ羽ばたく鷲。人間の様な二足歩行の鷲だ。
「私はゲラ。よろしく頼む」
 その姿は正にトカゲ戦士。トカゲだけど頭の良さそうなその風貌は何か惹かれるものがある。当然、二足歩行である。
「俺はウルフ。仲良く頼むぜ」
 その姿は正に獲物を狙う狼。単純そうな思考に見えて、実は切れ者の雰囲気が漂う。
 彼らは同盟を結んだ。知能と力を持つディーナ、ホーク、ゲラ、ウルフを筆頭に、知能も力もそれ程無いが、無数の量を誇る怨念生物軍団。これだけそろえば人間に復讐が出来る。人間を抹殺できる。彼らは確信した。
 そうと決まれば話は早い。人間抹殺のため彼らは動き出す。



             もしよろしければ投票お願いします


             こちらも投票お願いします


             ネット小説ランキングに投票お願いします。


             

3、世界全てを巻き込む戦争 

 怨念生物たちは進軍する。すべては人間抹殺のため。それだけで動力は十分。進んで進んで進み続ける。まずターゲットに決めたのは、ダイナ族が絶滅するきっかけとなった忌まわしき町。ディーナはダイナ族の怨念集合体なので、その町の場所は完璧に把握していた。これも一つの理由。そしてまずは、全力でそこを滅亡させ、知能のない怨念生物達を枝分かれさせる。これも一つの理由。町に怨念生物達が入り込んだときは、人間が地球上で最もパニックに陥ったのではないだろうか。
「ば……、化け物だ!!!」「キャー!」「なんだなんだ! どうなってるんだ!」
 さまざまな悲鳴がが飛び交った。しかし、怨念生物の頭の中にはそんな言葉は入ってこない。頭の中に木霊するは『人間抹殺』この言葉のみ。次々と人間を血祭りにあげてゆく。
 あれだけ活気のあった町が瞬く間に血の海となり、残るは一つの家族のみとなった。
「頼むこの子だけは助けてくれ! 俺たちはどうなってもいい!」
「お願いします、お願いします……」
 ガタガタ震えながら命乞いをする夫婦。子どももガタガタ震えて夫婦の背中に隠れる。恐ろしすぎて泣く声もでないようだ。
 それを冷たい目で見下ろすディーナたち四体。まず動いたのはウルフ。
「俺たちはどうなってもいいってことは、つまりまぁ要約すると殺っちゃっていいってことね。ありがたやありがたや」
 その鋭い爪で夫婦を一刺しにするウルフ。即死だ。
「お母さん……お父さん……!」
 恐怖を噛み殺して、大声ですでに命のない夫婦に言葉を投げかける子ども。これを見て、ホークが不適に笑う。
「思い出すぜ。俺も今のような経験があった。でも、人間はそれを笑いながらおこなうんだ。そして俺も今、同じ立場にいる。殺られる側じゃあなく、殺る側として同じ立場にいる。これ程奇妙で嬉しいことはねえよなぁ」
 ホークはそう言うと、羽をバサッと広げた。
「てことでこの餓鬼は俺が殺る。異論はねえな?」
 そんなホークに対し、異論を投げかける三体。
「別に殺す必要はねえんじゃないか。勝手に死ぬだろ、俺たちが手を加えるまでもなく」
「その通りだ。われわれの目的は人間の抹殺であり、無意味に殺すことではない。無意味な殺人をおこなうなど、人間と同じになってしまう」
 ディーナも何か言葉を発しようとした。しかし、止めた。ホークの眼が怒り狂っているのだ。それは、人間ではなく自分たちに向けられる怒りの眼。
「ここにきて奇麗事か? 思い出せ! 俺たちは人間に何をされてきた? 人間は命乞いをする生物を助けたことがあるか? ないだろ! 俺から見たら、今のお前らは甘い。俺たちは何のために生まれてきた! 人間に復讐するためじゃないのか? 人間を抹殺するためじゃないのか!? なのに……、甘いぜ」
 そして、ホークは広げた羽を一つバタつかせた。その風圧は人一人殺すくらいわけない。無情にも子どもの体は真っ二つになった。
「おっと、勢い余って殺っちまったよ」
 ニヤッと笑いながらそう言うホーク。明らかな確信犯である。
 これにより、ダイナ族を絶滅に追いやった忌まわしき町は壊滅した。彼らは初めて、自分たちの思うがままに人間を虐殺することに成功したのだ。
「よし! さぁ、次の町に行こうぜ! 抹殺だ。人間抹殺だ!」
 最も、その偉業に震えているのはホーク。今、人間を殺すことにこれだけ喜びを感じている生物はいないだろう。それ程、嬉しそうに言うのだから間違いない。しかし、それをディーナは止める。
「いえ、次からの町は彼らに任せ、私たちは『デービグロー』に戻りましょう」
「なんでだよ! 俺たちが負ける要素ないだろうが!」
 当然のように反抗するホーク。しかし、それをウルフとゲラが冷静に止める。
「歯止めの効かない暴走機関銃かてめえは……、なぁ、ゲラ」
「うむ。考えてみよホーク、人間はなぜわれわれを殺せ続けてきた? 運動能力では人間に引けをとらない。むしろ、上回る生物もいるわれわれがだ」
 ゲラは冷静に問う。ホークは、ゲラをギロッとにらみ「知能って言いたいのかよ?」と返す。
「その通り。人間には優れた知能がある」
 しかし、ホークは納得しない。今、自分たちには人間にも引けをとらない知能がある。力も人間より上。どっちにしても負ける要素がない。大丈夫だと言い張る。しかし、ゲラが言いたいこととは返しがずれている。ゲラはそれを指摘した上でもう一度口を開いた。
「本当にそうだろうか。確かに単純な知能では今のわれわれは負けていない。しかし、争いの知識。これにかけては人間が上だ。人間は人間同士で争いを続けてきた。最高の知能と最高の知能同士で続けてきた争いは、もうわれわれが追いつけるものではない。人間は人間ですら犠牲にして、目標を殺しに来る残酷な集団だ。無闇に動くとまとめて殺られる。だから今は引くべきなのだ」
 このゲラの言葉には流石のホークも黙った。人間を抹殺するにはやられてはいけない。多少、人間を抹殺するのに時間がかかるとしても、やられる、これだけはいけないのだ。やられてしまえばまた人間は付け上がり、同じ歴史の繰り返しになってしまう。それだけはいけないのだ。そしてそこに、ディーナが割って入る。
「まとまったようですね。では、私たちはそろそろ引きましょう。一つ言っておきますと、この出来事は人間すべてに伝わります。ホーク。どちらにしても、人間は人間としての誇りのすべてをかけて私たちを抹殺しにくるでしょう。そうなればどちらかが絶滅しない限り争いは続きます。焦らずともどちらかが抹殺されますよ」
 ゲラからのディーナ。この言葉の連携で、ホークもようやく納得の態度を示した。
「分かった、言うとおりにするよ。でも、戻った後が暇だから面白そうなもんかっぱらっていこうぜ。それと、あんま化け物って言い方は好きじゃないから、俺たちは魔族って言い合おうぜ。そのほうがかっこいいじゃんよ」
 人間達は怨念生物達が町に入ったとき、口を揃えて化け物だと口に出した。これをホークはあまり気に入らなかったようで、魔族にしようと言いだしたのだ。この言葉により、怨念生物改め、名称は魔族となった。
 町民皆殺し。この事件はディーナの言うとおり、瞬く間に人間の耳に広がった。当然、化け物が町を襲っているということもだ。この事件に怯える人もいれば、腕試しになると喜ぶ人もいる。少なからず世界全土に影響を与えた。
 そして、この男もこの瞬間を喜んだ。今まで夢見たことが叶ったのだ。人間以外との血と血の争い。大量虐殺ではなく、緊張感あふれる争い。ついにきたと喜んだ。
「ククク……、神はわしに最後の快楽を与えよった。化け物、化け物か。ククク……、面白い。得体の知れぬものほど面白い。得意気に町を奪うがよい。しかし、わしは黙って震えてはおらんぞ。のぉ、アドルフ」
 恐怖に震えるなんてとんでもない。むしろ、喜びに震えているという様子。そして、そんなヒドラーに対し、少し、いや、かなり引き気味のアドルフ。
「はい……、そうでございますねヒドラー様」
「アドルフよ。今、動かせるだけのアンドロイドを『メガンナ』へ送り込め。土地開発をアンドロイドに任せ、軍隊を全て化け物退治に回す。ククク……、楽しみじゃのぉ、楽しみじゃのぉ」
「はい、分かりました」
 引き気味ではあるが、王であるヒドラーには決して逆らうことなどできない。おとなしくヒドラーの命令を聞くアドルフ。これで土地開発は心配ない。そして、軍隊をすべて呼び寄せ、化け物退治に向かわせる。争いの始まりである。
「ククク……、人間をなめるでないぞ化け物ども。このわしの世界、そう簡単にとれやせんということを教えてやらねばならんな」
 町民が皆殺しにされ、化け物が現れてもその不気味な笑みをやめようとはしない。むしろ、その笑みに磨きがかかっているくらいだ。間違いなく今の状況を楽しんでいる。
「後は、あの男を動かすのみ……、これで今の段階での全てが整う」
 ヒドラーの言うあの男。それは『ハーアリア』という町に住む一人の男。彼は人間で最強の戦闘力をもつ。あのヒドラーがそう称するのだから間違いないのだろう。ヒドラーは彼を動かすために部下を一人『ハーアリア』に向かわせた。ヒドラーには確信があったのだ。この状況をもってすれば、その男は必ず動く。
 ヒドラーはニヤニヤが止まらなかった。世界が一つになって流れた年月、本当の意味での争いというのは一つもなかった。しかし、どういう経緯かはしらないが、突如現れた化け物達。その化け物達は強い、軽々と町一つ潰すほど強い。だからこそ面白い。人間並、いや、人間以上の生物と争える。これ程までに面白いことなどない。ヒドラーはそう考える。そんな事態になった以上、ヒドラーが動くのは必然的なのだ。そして、人間抹殺のために生まれた魔族と争いを繰り返し続ける人間。この二つが争うのも必然的。
 世界全てを巻き込む戦争。ここに開幕!



             もしよろしければ投票お願いします


             こちらも投票お願いします


             ネット小説ランキングに投票お願いします。



             

4、勇者? 

 ヒドラーの部下が『ハーアリア』へとたどりついた。まだ魔族もここまでは侵略していないようで、楽にたどりつけたことにまずホッと胸をなで下ろす。しかし、ここからが勝負。動かさねばならないのだ。ヒドラーの言う最強の男を……。
 部下は『ハーアリア』へ足を踏み入れ、その男を呼ぶように伝えた。実はこの部下も、その男をこの眼でみたことはない。ヒドラーから話を聞いただけである。だからこそ、その男をその眼で見たときは心底驚いた。
 普通なのだ。どこからどう見ても最強には見えない、普通の好青年。部下は本当にこの男が最強の男なのか疑った。なんせ、部下のイメージではとてつもないほどの大男だったからだ。
「君がフェーユ君かね?」
「ええ。そうですよ」
 なんとも普通に返答するこの男。部下はさらに怪しむ。
「それでだがねえフェーユ君……。」
 部下は、フェーユの眼をチラッと見るだけでなかなか内容を言い出せない。まだ、百パーセント信じきれていないからだ。
「あっ、もしかして俺がフェーユだって信じてないでしょ? まぁ、無理ないよなぁ」
 フェーユも、部下の対応を見て、自分がフェーユだと思われてないことに気づいた。少しへこんだ様子で髪の毛をいじくっている。
「あっ、そうだ!!」
 フェーユが手をパチンと鳴らし、新聞紙で作ったチャンバラ剣みたいなものを二つ用意した。いい方法を思いついたのだ。
「これで戦いましょうよ。これなら死ぬ心配はないですし、自分がフェーユだっていう証明にもなる。言葉よりも体で覚えろです」
 部下は正直イラッときた。部下といえども『コンセクト』で鍛えられた人間。それも、自分で自分を強いと自負している自信家でもある。大概の人間には負けるつもりはないのが本音である。しかし、フェーユはさらっと言いのけたのだ。死ぬ心配はない。つまり、真剣なら殺してしまう。間接的になめられたのだ。正直、負かしてやろうと思った。
「いいでしょう。しかし、知りませんよ。これで負けてしまってはあなたの心に傷がつく」
 部下も、出来る範囲で精一杯反抗した。少しは言い返してやらないと気がすまなかったのだ。
「いやぁ、それはないとして、普通にやるのもつまらないですからちょっと条件をつけましょうか。俺は一振りしかしません。それで決着をつけます。それで、これは大事なことなんですけど、あなたは俺の一振りを無理にかわそうと思わずに動かないでください。ちょっとまずいことになるかもしれないんで。あっ、別に八百長しようってんじゃないですよ。隙が万が一でもあれば狙ってくれて構いませんから。ただ、俺が打つ時は動かない方がいいですよという忠告です」
 余裕綽々のフェーユ。これには部下も少し荒々しくなる。
「……いらないご忠告ありがとう!」
 新聞紙を勢いよく手に取り、構える部下。フェーユも部下が新聞紙を手に取るのを見て、ゆっくりと手に取る。この瞬間である。誰かが町中に知らせたのであろう。なんと、町中の人間が二人のチャンバラを見に集まってきたのだ。
「フェーユが剣を振るぜ!」「久しぶりに見れるのか!」こんな声が轟く。それほどまでにフェーユの剣は凄いということなのだろうか。
「ギャラリーも集まったことだし、じゃあ、いきますか」
 フェーユのこの言葉でチャンバラが始まった。正直、手加減無しで負かしにいこうとしている部下。接待チャンバラなどにする気はない様子。
 そして、対するフェーユ。明らかにリラックスした状態である。なんせ新聞紙をくるくる回しながらジリジリと間合いを詰めてくる部下を待っているのだから。この余裕さはなんなのだろうか。正直、部下は勝てると思った。隙だらけなのだ。どこを見ても隙だらけ。自分の間合いにさえ入れれば、どこを打っても勝てる。こいつはフェーユじゃない。少し町で実力があるだけ。口だけ、目立ちたいだけの素人だ。そうとまでも思った。
 そして、フェーユは楽々と自分の間合いまで詰めさせてくれた。勝った、部下は確信する。そして、フェーユに対しちゅうちょなく斬りかかるために動こうとする。しかし、その確信は無残にも砕け散る。
「い、いない!」
 そう。部下の瞳の先にフェーユの姿はなかった。この一瞬が命取り。もう、部下に打ち込める範囲はない。というか、部下は見てしまったのだ。偶然にも斜め下を見ると、鬼のような瞳で斬りかかろうとしているフェーユの姿が。
「ひっ……」
 あまりに恐ろしい打ち上げだったので半歩後ずさってしまう。そして、フェーユの太刀が部下の頬をかすり、試合終了。急いでフェーユが部下の下へ駆け寄る。
「あ、危ないよアンタ! 言っただろ動くなって。もう半歩動いてたら首飛んでましたよ全くもう……。太刀の軌道変えるのは難しいんですよ!」
「えっ、こ、これは……、血!」
 部下が頬をなでると、なんと血が流れているではないか。丸めた新聞紙、たかが丸めた新聞紙で血が流れ、フェーユの技術で命まで救われたのだ。丸めた新聞紙で命を奪う、こんなことありえない。しかも、あの斬りかかるときの鬼のような瞳、まさしく……。

「これが、フェーユ……。」
 部下は確信した。この男がフェーユだと。最強の名、半端ではないと。
「さて、分かっていただいたところで本題に参りましょうか。化け物のことでしょ? それしか考えられない」
 部下は驚き、怯える心を静め、コクリとうなずく。
「分かりました。やりましょう化け物退治!」
 なんという決断の早さだ。部下は驚いた。しかし、これはこれでいいのだが、なぜ引き受けたか理由だけ聞いておきたかった。
「当たり前じゃないですか、俺は人間。人間の危機が迫っているのに、人間がそれを助けないでどうするって話です。でも、これにも条件を一つ。俺の一番大事な人間は、この町の人間です。この町が襲われたと知れば、どこの町よりも、中心部の『コンセクト』よりもこの町を優先して守りますよ。よろしいですか?」
「それは分かりました、伝えておきます。しかし、もう一つ聞いておきたい。フェーユ君、君は今から化け物退治をするのだよ? もしかすると、いや、もしかしなくても常人ならば間違いなく命も落とす化け物退治だ。正直、私は恐いよ。恐ろしくて引き受けたくなどない。見返りもないんだ。しかし、フェーユ君。君はそれでも化け物退治をしようというのかね? 命を、人間を守るために自分の命を捨てられるというのかね?」
 部下が最も聞きたかったことはこれだ。見返りがない。つまり、利益がない。いや、世界中を代表するくらいの名声と富を得ることはできるであろう。普通ならばこれ以上ない見返りだ。しかし、それに対しリスクは命。それも、困難を極めるレベルの内容。得体も知れない化け物退治だ。死ぬかも知れないではない。死ぬだろうという気持ちで挑まなければならない。それに対し、どれだけの名声と富を得ることが出来ようが、見返りにすらならない。こんなもの、引き受ける理由が見当たらない。
「俺は人間です。人間である以上、俺は同じ種の人間を優先して守る。自分の命一つより、多くの人間の命の繁栄。当たり前の話でしょ」
 涼しい顔で、重たい発言をさらりと言い切った。部下はゾクッとした、なんともいえない気分となる。普通じゃない、この男は普通じゃない。
「フェーユ君、こんなこと言ったのがバレたら私は殺されてしまう。でも、言わせてもらうよ。君は馬鹿だ。不器用すぎるよ」
「まぁ、確かにそうですよね。でも、いいんじゃないですか。不器用な馬鹿が人間を救う、ちょっとかっこいい」
「失礼する……。」
 瞳の奥底からゾクゾクしているのが感じられるフェーユに対し、部下は今後一切、フェーユとは関わらないことに決めた。フェーユは自分とは違う世界で生きている。ヒドラーとも違う、もっと別次元の世界。
 そして、化け物退治へ出たフェーユは、数々の化け物の襲撃から人間を救った。その救う数が増えれば増えるほど、フェーユは人間から称賛を浴びた。
 そして、彼はついに人間からこう呼ばれるようになった。『勇者』と。


             もしよろしければ投票お願いします


             こちらも投票お願いします


             ネット小説ランキングに投票お願いします。


             

5、僕は王子様 

 魔族から人間を守り続ける勇者フェーユ。そんなフェーユに憧れ旅に出ようと決意する一人の人間……、いや、一人の王子がいた。
 世界が誇る巨大都市『レーシア』その都市に、世界で唯一の王子、シャロンがいる。シャロンは旅に出たい気持ちでいっぱい。その思いは抑えられないくらいまで高まっており、思い切って大臣達に自分の思いをぶちまけた。
「いけません王子! いくら王が許しても、わしら大臣が許しはしませんぞ!」
「そうです。王子の武術の鍛錬の努力は私も感心いたします。しかし、王子はまだお若い。まだまだ未熟です。一歩外に出れば、すぐに化け物どもに殺されてしまいますぞ」
 大臣たちは、王子の決意に猛烈に反対の意を示した。しかし、そんな大臣たちの言葉にも納得がいかないシャロン。ムスッとした顔で一言反論する。
「僕は王子だぞ! 僕に反抗することは許されないんだ」
 この一言には、さすがの大臣たちも言葉が止まる。下手なことを言いすぎて王子に処罰をくだされてしまうと、今までの安定した自分たちの生活が一瞬にして砕けてしまう。それはいけない。大臣たちは、シャロンの身の安否よりも、自己防衛を選んだのである。
 しかし、このまま旅に行かせてシャロンが死んでしまったとなると、それはもっと危ない。生活以前に命が砕けてしまうかもしれない。それはどうしても避けたい。となると導かれる答えは一つ。王子を旅に行かせ、なおかつ生かす。しかし、そんな都合のいい方法が……
「そうだ!」
 あった。大臣の一人が思いついたのだ。あの女を使えば。
 この巨大都市『レーシア』には世界に誇る格闘家が住む。その格闘家の女性は、はっきりとは分からないが、あの勇者フェーユに継ぐ実力者じゃないのかと言われている人間であり、シャロンの護衛を任せるにはもってこいなのだ。
 大臣たちは皆合意。シャロンに案を持ちかける。
「ということは、僕の旅を許してくれるんだね! それに僕の身を安じて護衛まで! ありがとう、本当にありがとう……!」
「お、王子……」
 大臣たちはシャロンの予想外の行動に焦った。なんと、シャロンがぽろぽろと涙をこぼしだしたではないか。それほどまでにフェーユに憧れ旅に出たいのか……、大臣たちは不思議に思いながらもシャロンをなだめる。そして、次は格闘家の下へ向かい、了承を得なくてはならない。ある意味これが一番大変だ。王子のためとはいえ、命を剥きだしにして守ってくれなんていう要求に応える人間などほとんどいないだろう。
 大臣たちは心臓をバクバクさせながら格闘家のもとへ向かう。今さら王子に旅へ出るのをお止めくださいと言う訳にもいかない。今考えると、大臣たちの提案はかなりギリギリのラインである。そんな思いで押しつぶされそうになりながらも、大臣たちは格闘家が住むと呼ばれる洞窟の前までたどり着く。そして大臣たちは、自分たちの要求をのんでくれと心から願いながら格闘家を呼ぶ。しばらくして、泥だらけの体、そして、まさに格闘家として似合う、真っ赤に染められた髪の毛の女性が洞窟の中から現れた。
「客人とは珍しいな。もしや果たし合いか?」
 出てきて言葉を発するや否や、鋭い目つきでファイティングポーズをとる格闘家。これには大臣たちも驚く。
「めっ、滅相もない! こんな老体に何が出来るというのです! わしたちは大臣ですじゃ!」
 驚きながらも、黙っていては殴られるかもしれない。慌てふためきながら弁解する。まぁ、敵意がないと分かれば戦意をむき出しにする意味はない。格闘家は静かに拳を下ろし、柔らかな目つきに変わった。
「これはとんだ無礼を。だが、大臣がそろいもそろって私のようなただの格闘家に何の用だ?」
「実は……」
 まず、格闘家が話し合いに応じたことにホッとすると、大臣たちは包み隠さず正直に、シャロンのことを話した。勝負は短期決戦。これで頷いてくれなければ自分達は終わり。大臣たちはゴクッと息を呑み、格闘家の返事を待つ。
「それでわざわざこんな山奥まで。それで、その王子はどこに?」
 そう、ここは『レーシア』ではなく、『レーシア』近隣にある山の奥。確かに、この格闘家の住む場所は『レーシア』だが、どうにも都市の空気は合わないらしく、山篭りして自分自身を鍛えているのだ。格闘家らしいとしてはらしい住処である。
 そして、そこまで重い体に鞭を打って大臣たちは山奥までやってきた。それに敬意を称し、格闘家は大臣の話を聞こうと思ったのだ。ラッキーといえばラッキーな話である。
「王子は『レーシア』で待っております。ついてきてもらえますかな!?」
 期待を込めた声色でそう言う大臣たち。そして、期待に答えるようにうなずく格闘家。
「あぁ。一言言ってやりたいからな、自分を勇者か何かと勘違いし、さらには自ら出向かぬような王子に」
 大臣たちは格闘家のその言葉に、機嫌を損ねない程度の苦笑いをしながらうなずき、山を降りた。
「山を降りたのは久しぶりだな。しかし、全く変わっていないじゃないかこの都市も。化け物が出たと言うから慌てふためいているのかと思えばそうでもない。平和だな……」
「殺伐とした世界を望んでいるのですか?」
「いや、そうではない。危機感が足りないと思ってな。化け物が現れたから拳を握り銃を取る、これくらいの状況になっているのかと予想していたものでな。あまりの違いについ言葉に出てしまった。すまない」
 格闘家の言うとおり、確かに都市の人間たちは魔族が現れたのでおびえたり闘争心をむきだしているのかと思えばそうではない。道の途中途中で笑顔で話しながら歩く人間たち。みんな笑顔に満ちている。魔族が現れたというのにみんな……。自分たちは安全とでも思っているのだろうか。
「王子はこちらです。どうぞ」
 もう、格闘家の言うことが理解できない大臣たち。適当に流し、王子と会わせることにする。
 ドアを開けると、そこはまさに王室。王子を守る兵士がズラズラ並び、その奥には立派な椅子に座るシャロンの姿。格闘家はその中を堂々と歩く。そして、シャロンの目の前でピタッと止まる。
「この方が王子の護衛をしてくださる格闘家でございます。どうでございましょう?」
 ニコニコとシャロンに格闘家を紹介する大臣たち。
「どうもこうも、僕の護衛を引き受けてくれるなんて大歓迎だよ。僕はシャロン! よろしく!」
 シャロンも、護衛を引き受けてくれたことが嬉しいらしく、笑顔で格闘家に挨拶する。というか、まだ格闘家は引き受けてはいない気がするのだが、まぁ、そこは置いておこう。
「王子……」
 格闘家はそうつぶやくと、眼をカッと見開いてシャロンを見た。その瞬間、この場にいる半数ほどの兵士が手に持つ武器を格闘家に対して構えた。
「えっ、何してるのさみんな! なんで武器を構えるの!」
 いきなりの兵士達の行動に慌てるシャロン。そんなシャロンの反応に、格闘家はフッとあざ笑う。
「半数か。やはり危機感が足りない。王子、あなたが旅に出るのは正解です。この場にいるよりも私といる方が、死亡確率は少ないでしょう。つまり、安全だ」
「な、何!?」
 怒りを露わにする兵士達。しかし、それも格闘家はあざ笑う。
「本当のことを言ったまでだ。あんな大きな殺気に気づけないお前たちが王子を守れるはずはない。というか、王子を守るといった姿勢が気に食わない」
 格闘家の言葉に兵士はまた怒りの声を上げるが、まだ我慢する。ここで挑発に乗るほど兵士達も馬鹿ではない。しかし……。
「お前たちが王子を甘やかしたおかげで、王子はあんな頼りなく育っている。あれで旅に出ようというのが馬鹿げた話だ。お前たちは兵士でありながら過保護は人間を衰退させるということを知らずに育ってきたのか? 守ることが愛情だと思っていたのか? とんだお笑い草だな、どいつもこいつも危機感が足りない」
 この一言で兵士達の中で何かが切れる。そして、一斉に格闘家を襲う。
「やれやれ、こうも思い通りに動くとは」
 格闘家が兵士達を迎え撃とうと拳を握ったそのとき。
「止めて! 駄目だよ! 僕たちが争っちゃ駄目!」
 王子の言葉に、兵士達も動きを止める。歯を食いしばりながら、眼では格闘家を睨みつけながら動きを止める。
「なぜそう思う? 王子、なぜそう思う!」
 戦いを止められた格闘家。しかし、なぜかその眼は期待に満ちている。
「僕は血を見るのが嫌い。特に、人間同士で争う血が。だって可笑しいもん。どうして同じ人間同士で争わなくちゃならないんだ。だから僕は思う、この化け物は神からの試練なんだって。神は、僕たちに協力の意味を教えようとしてるんだって。だから、今こそ僕たち人間は力をあわせて化け物をやっつけなきゃならない時なんだ。なのに駄目だよ……」
「王子……」
 兵士たちが武器をおろす。シャロンの心が伝わったのだ。しかし……。
「だが、残念ながら王子の意向は人間には伝わっていないようだ。まだまだ危機感のない人間だらけだぞ」
 格闘家は反論する。必死な眼をしたシャロンを見つめる冷静な眼。何かを狙っているようにも見える。
「それは僕が弱いからなんだと思う。僕が弱いから僕を守ろうとする、僕が弱いからみんなに現状が伝わらない。僕は王子で、僕に反抗することは許されない。僕はみんなに、協力して戦おう、人間の世界は人間が守るしかないんだ。そう言いたい。でも、僕が弱いから伝わらないんだ。だから僕は旅に出て強くなりたい、僕が強くなればきっと伝わる。僕……、王子だから。皆に引っ張ってもらうんじゃなくて、引っ張らなくちゃいけない。このことに気づくの……、遅かったかな?」
 また、あのときのように涙をぽろぽろと流すシャロン。シャロンは魔族と勇敢に戦うフェーユを見て気づいたのだ。このままじゃいけない、僕たち人間も戦わなければ。フェーユや軍隊に任せっぱなしじゃいけない、伝えなければ。王子として、人間に伝えなければ。協力して戦おう、人間の世界は人間が守るしかない。そのためには旅に出て強くならないと。自分自身が。
 シャロンはそういう気持ちから旅に出ようと決意したのだ。紛れもない本音である。このシャロンの決意に対し、初めて格闘家がニコッと笑う。
「聞いたぞ、王子の本音。確かに聞いた。任せろ。私、格闘家ファイが、王子の右腕となり、強くしてみせる。見違えるほどにな。それに、王子が気づいた気持ち、決して遅くなんてない。気づくことが大事なんだ。そこに早い遅いはない。そして、そこに気づいた王子は、やはり王子です」
 そう言うと、ファイがシャロンのもとへ近づき、ゆっくりとシャロンの手を引いた。
「泣いてはなりません。強くなろうという者が、引っ張ろうという人間が。さぁ行きましょう。涙を拭いて、拳を握り、剣を抜き、強くなりましょう」
 シャロンが静かにうなずき、流れる涙を必死に止めようと頑張る。そして、必死に流れる涙を止めたシャロン。旅立とうと歩き出すと、二人を送り出す大臣や兵士達が叫ぶ。
『いつまでも待ってます王子。我々も強くなって……、待ってます王子!』
 この激励の言葉に、シャロンはまた涙腺が緩む。
「そういうこと言わないでよう……。また、泣いちゃうじゃないかぁ!」
 そんなこんなでまだまだ未熟な王子。そして、それを支える格闘家ファイ。この二人もまた魔族の脅威となる存在となるのか、それはまた後の話である。




                  もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  




                  ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

6、行動開始 

 魔族としては最大の敵であるフェーユ。そんなフェーユの活躍は、瞬く間に魔族の下にとどろいた。
「おいおい、このままでいいのか? 人間どもも本格的に動き出したようだぜ」
 そう言うも、トランプをシャッフルしながらのん気にしているホーク。どうやら忌まわしき町でかっぱらってきたトランプがお気に入りらしい。
「いいわけねえわな。多勢に無勢で交戦してる人間どもはまぁいいとして、人間なのにたった一人で交戦してるフェーユってのが気に食わねえ」
 ウルフはフェーユをかなり敵視しているようだ。その鋭い牙で噛み付いてやろうという勢いで言葉を発している。
「そんじゃ、そのフェーユってのを早く抹殺しねえとな。脅威の種は早く摘まねえと化けるかもしれねえ。弱い『3』だって革命が起これば、強い『2』にも勝てる。それも圧倒的にな」
 トランプを使いながら説明するホーク。一見ふざけているようにも見えるが、話の内容としてはその通りで、早めに殺しておかないといけないことは確かだ。そこで言葉を発したのはゲラ。
「私がフェーユ討伐に行こう」
 しかし、他の二人は納得できない。行くならみんなで行く方が確実にいい。
 もし、一人一人がフェーユの実力におよばないとしても、三人一緒なら勝てる。間違いなくリスクは少ないのだ。しかしゲラは反論する。このメンバーの中で最も慎重なゲラ。三人全員で出向くのは得策ではないと考えているのだ。
「いや、私一人で行こう。今回のケースは力も知恵もある人間。何らかの形で敗北する可能性があるのなら、犠牲は少ない方がいい」
「でもよぉ……、それでフェーユを討伐できなかったらどうすんだよ? ゲラが死んじまうなんてやだよ俺?」
 真剣な顔でゲラを心配するホーク。怒るときは怒り、心配するときは心配し、悲しむときは悲しむ。典型的な感情タイプである。
「そこは心配ない、引き際くらい知っているつもりだ。そうだな、言い方を変えよう。討伐というよりも調査くらいに思ってもらえればいい。脅威にならぬレベルなら殺すし、脅威のレベルなら報告に戻る」
 それでも心配の声を上げるホーク。しかし、それをウルフが止める。
「あぁ、任せたぜゲラ。お前の報告を待つ間、俺もいろんなケースを想像して作戦を考えておく」
「まっ、まぁ、お前らがそう言うなら止めねえけどよぉ、絶対死ぬなよな」
「心配におよぶことでもない。だが、その気持ちは気持ちよく受け取ろう。では、行ってくる」
 これにはホークも二人の意をくみ取ったのか、しぶしぶではありながらもゲラを送り出した。
「なぁホーク、確かにファミリーを心配するのも大事だが、ファミリーを信じるのも大事なんだぜ?」
 ゲラがフェーユ討伐に向かった後、まだ100%納得していないとみえるホークに対し、ウルフは優しい言葉、しかし、キツイ口調で話しかけた。
「分かってるよ。でも仕方ねえじゃん、俺の心はファミリーを心配してるんだ。そりゃファミリーを信じたい、というか信じてる。でも、俺の心は滅茶苦茶心配してるんだよ。その気持ちを押し切ってまで……、何も言わねえで見送るなんて俺にはできねえよ」
「ヒャハハ! 確かにそりゃそうだ。お前にしちゃ上出来な台詞だなぁ」
 真剣に発したホークの言葉に、大声で笑いながら転げまわるウルフ。どうやら、真剣なホークはウルフにとってツボらしい。
「笑ったなぁ、笑いやがったなぁ! マジだった俺を笑いやがったなぁ!」
 笑い転げまわるウルフに飛び掛るホーク。
「おいおい、痛いじゃねえかホークさんよぉ? フェーユの前にまずはお前を食いちぎってやろうかぁ!?」
 二人の幹部のどんちゃん騒ぎの大乱闘。端から見れば完全に喧嘩である。当然二人はこの後、騒ぎを聞きつけたディーナに止められ、ヒドく怒られたのは言うまでもない。
 とにかく、魔族も本格的に動き出した。狙うは勇者フェーユ。彼の力を見極めることが、魔族の今後に大きく影響してくるのは言うまでもない話である。



                  もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  




                  人気ブログランキングへ

7、レベルの差 

 フェーユ討伐のため進み続けるゲラ。しばらく進み続けていると、人間と魔族が争いを繰り返している争いの場へたどりついた。銃器で魔族を確実に撃ち殺す人間。撃ち殺されながらも、その無限に近い数でノロノロと進み続け、人間を食う魔族。この地獄のような光景にゲラは思わず眼を伏せてしまった。
「ここを抜けねばならんのだな……」
 眼を伏せている場合ではない。普通に考えれば魔族側に加勢するのが当たり前の状況だろう。しかし、ゲラはその選択を捨てる。相手は人間側の最終兵器「勇者」と呼ばれる相手。しかも、その名に恥じぬ実績も残している。そんな相手に手負いの状態で相手するのは避けたい。魔族として加勢したい気持ちはあるが、ゲラはこの争いの隙を狙って先へ進まねばならないのだ。そのためにも争いの状況を注意深く見つめる。
「なんだ、楽に行けそうだ」
 そう、人間は魔族を撃ち殺すのに精一杯、というよりも夢中。完璧に気を取られているのだ。その中を魔族の中でだれもが認める実力者のゲラの手にかかれば抜けることなど造作もないこと。楽々とクリアである。
 ゲラが争いの中を進む途中、このような争いが無数にあった。何日も……、どれくらい進んだか覚えがないくらい何日もかけてここまできたというのに、争いが途切れることはなかったのだ。そして、その争いのすべて、眼を伏せるような地獄のような争いであった。だが、ゲラが確証できたことがある。
「みな楽しそうであった……。憑かれておった。やはり人間、争いに生きる生物よ」
 ゲラがそう言いため息をついていると、体中の神経がビクッとなり、ゲラを刺激した。
「近い。ほぅ、人間とはいえなかなかの闘気をもっておる。油断できんな……」
 ゲラは『デービグロー』で拾った剣を抜き、構える。自分の体の特性を武器とする魔族と違い、ゲラは世界の産物を武器とする変わった魔族なのである。
 闘気の流れを感じる方向にジリジリと距離を詰めてゆくゲラ。この闘気だけでも、フェーユがどれ程の人物なのか分かる。流れ出る汗が止まらぬのがいい証拠。
「見えてきたぞ。しかし、二人? フェーユは単独行動ではないのか!」
 魔族の中でも眼が格別にいいゲラ。遠くから歩く二つの人影を察知する。しかし、闘気があふれ出ているのは一人。ゲラはその一人を標的に定め、一気に進む。それは相手も同じだったようで、物凄い勢いで間合いを詰める両者。そして、そのままの勢いで合い向かいあう。
「さっきからピリピリと感じていた闘気……、貴様のものか?」
「それはこちらの台詞だぞフェーユ。手合わせ願おう」
 口を開く両者。しかし、ゲラは一つ間違いをしている。
「フェーユ? 私たちはフェーユではない。標的が違ったか? 残念だったな化け物。しかし、逃がさんぞ」
「フェーユではない?」
 そう。ゲラが出会ったのはフェーユではない。シャロンとファイ。ゲラはファイの闘気をフェーユの闘気だと勘違いしたのだ。まさか、これほどまでの闘気をフェーユ以外の人間が放つことが出来るとは思わなかったから。これによりゲラは、人間の恐ろしさを再認識する。
 しかし、今このとき、そんなことは関係ない話。出会ったからには殺るしかない。
「それは残念な知らせだ……。しかし、そなたのもつ闘気、只者ではないとみた。だからこそ隣の少年が気になるものだな。まぁ、人間としてはレベルの違いに気づくのは大したものだが」
 そう、シャロンはおびえていた。シャロンとファイの旅の中、シャロンだって数々の魔族と出会い、そして倒してきた。ファイがすべてお世話するなんてそんなことはないのだ。着々とシャロンも実力をつけているのである。だからこそ分かる……、恐怖。
「そうだろう、王子は成長している。といっても、まだ貴様と戦えるレベルではないがな。というわけで、私はフェーユでもないし王子は見ているだけだ。しかし落ち込むことはない。私が思う存分楽しませてやる。礼に命をもらうがな」
 そう言うと一つ深呼吸をし、拳をギュッと握り、構えるファイ。戦闘態勢ばっちりである。
「私の名はゲラ。そなた、名はなんという?」
「そんなことはどうでもいい話だ。早く構えろ」
「名はなんという!?」
 ゲラの眼がカッと見開く。
「ファイ……格闘家ファイだ!」
 思わず名を名乗ってしまうファイ。これはもう言わざるを得なかった。いきなりの思いがけぬ闘気、ファイの神経にピリピリと緊張が走ったのだ。デカイ、これほどまでの闘気、ファイの人生の中でも最も大きな闘気。そう断言できるほどデカイ。しかし、ファイは臆したから名を名乗ったのではない。反射的に名乗ったのだ。
 格闘家はどんな者であろうと強き者には名を名乗る。その習性が働いたのだ。つまり、ファイはゲラを強き者として認めた。そして、ゲラもファイを強き者として認めた。そして、強き者は強き者と戦うことに快感を感じる。証拠にゲラの眼は血走っており、とてもいつもの冷静なゲラとは思えぬ姿。ウズウズが止まらないのだ。ファイだってさっきから体の動きをとめることが出来ない。勝手に体が動いてしまう。ワクワクが止まらないのだ。
「ファイ、良い名だ。この小さな記憶の中で大きく覚えておこうぞ」
「王子、出来るだけ離れて……この戦いを見て学んでください。そして、私に何があっても近づいてきてはなりません。ここは不幸にも障害物のない広い草原。追いつかれるのは目に見えています。早い段階で見限るよう頼みます」
「その通りだ少年。もし、邪魔などするものなら許さんぞ?」
 優しく……いや、厳しい言葉を投げかけるファイ。シャロンを鋭い眼光でにらみつけながら脅しのように言葉をぶつけるゲラ。そんな両者からの精神圧迫攻撃に耐えられるはずもないシャロンは、ガタガタ震えながらうなずくと、ヨロヨロと離れていった。
 シャロンが離れたその瞬間、二つの闘気は直線に相手の方を向く。拳を構える時も、剣を構える時も、相手から眼をはなさない。そして……動く瞬間はほぼ同時。拳と剣がぶつかる。
 ぶつかり合う拳と剣。だが、遠くで見ていたシャロンにも分かることがある。
「ファイが……、少しずつだけどファイが押されてる……」
 シャロンの言うとおり、多少ファイが押されている。微量とはいえ戦力差があるのだ。この戦力差、大人数だとそれほど気にならない。その程度の戦力差だが、一対一の場合、その程度の戦力差がものをいう。相手が何らかのミスをしない限り、隙をつけない限り勝てない。
 しかし、ゲラは闘気通りの強者。それも猪突猛進型ではなく、不幸にも一つ一つ行動を組み立てながら戦闘を行う冷静理論型。隙を見せる様子などない。ならばどうする、自分に何が出来る。シャロンは考えた。そして、結論にたどり着いたのだ。
「このまま黙ってみているなんてできない。大丈夫、僕だって少しは強くなったんだ。いけるさ、戦力差はわずか。僕だってそのわずかの戦力はあるはずだ。そうだよ、今の僕があるのはファイのおかげで……。何回も助けてもらった。戦い方を教えてもらった。今度は僕が助ける番だ!」
 シャロンは恐怖を押さえ込み、戦いの場へ走る。走りながら不格好に剣を構え、大声を上げながら突撃する。少人数の戦闘において大声を挙げながらの奇襲など無意味でしかない。だが、シャロンの心はファイを助けることで精一杯。状況など、前など見えていない。
 この事態にいち早く気づくゲラ。何らかの態勢をとるため、ファイから一度離れる。
「王子!」
 ゲラが離れたことにより自由になったファイは、ゲラとの戦いを中断し、シャロンの下へ走る。
「……」
 この状況を予想していたかのように、ゲラは何も言わず一定の距離を保ちながらファイに続く。そして、ファイがシャロンの下へたどり着いた。
「王子! 危険と言ったでしょう! どうして……、王子?」
 ファイが言葉をかけたその先に、シャロンはすでにいなかった。そう、シャロンにはファイが見えていなかった。ファイを救おうとする一心で動くシャロンは、当事者のファイすら見えていなかったのだ。シャロンが見えているヴィジョンは、ゲラにいずれ倒されるであろうファイの姿のみ。シャロンはそこへ向かって突き進むのみ。
 そして、真っ直ぐ進んでくるシャロンに対し直線に位置する様に立ち、怒り心頭であろう顔つきで剣を構えるゲラ。
「うわぁぁぁぁ!!」
 シャロンのヴィジョンとゲラの位置が一致したのであろう。大きな叫び声を上げながら剣を振りおろすシャロン。しかし、その振りおろしを冷静に対処するゲラ。大きく隙の出来たシャロンに対し、一撃を加えようと剣を構える。
「少年! 邪魔をするなといったであろう!!」
 確実に殺してやろうと、シャロンに向かって鋭い斬撃を繰り出そうとするゲラ。これは本気で殺す気である。
「なっ……!!」
 ゲラの剣は当たった。確実に当たった。しかし、それはシャロンにではなく、ファイに……。
「そこで守るか。戦友と呼べるほど深い仲であるとは見えぬのに……。そなたどこまでも本物。少年、ファイに感謝だぞ」
 ファイがシャロンを突き飛ばし、自分を犠牲にしてシャロンを守った。ゲラの斬撃がファイの身体を真っ赤に染める。大ダメージは避けられない。
「王子……大丈夫ですか……?」
 シャロンの勝手な行動によりこうなったこの事態。しかし、それでもファイはシャロンを心配する。その心が、シャロンをまた動かす。
「ごめん、大丈夫。僕は大丈夫……だけどごめん!」
 落とした剣を拾うシャロン。そして、まだ不格好な構えながら、ゲラに向かい構える。
「来い化け物、絶対にファイを殺させないぞ! 僕が首だけになっても食らいついてやる。絶対にファイを殺させない!」
 どれだけすごんでも闘気を感じないその姿には説得力の欠片もない。しかし、ゲラは剣をおさめる。
「少年、心意気は認めよう。だが、それは無理というものだ」
 そう言うと、ゲラは元来た道に向かって歩き出す。
「少年、ファイ。そなたたちが二人そろって実ったとき……、その時は容赦なくこの剣をそなたたちの血で赤く染めよう」
 そう言ってゲラは去った。結果的に二人は助かった。しかし、生かされたのだ。この結果に格闘家のファイが納得できるわけがない。しかし、ここは自分を貫き通す場所じゃない、それも理解している。ファイは言葉を発したい口をギュッと噛み締めてふさいでいたのだ。
「ファイ! ファイ!!」
 何度呼びかけても返事のないファイに、焦るシャロン。だが、大丈夫。この呼びかけにようやくファイが口を開く。
「王子……どうして見限らなかったのですか……。私に勝機が見えないから駆けつけたのでしょう? 私の言った言葉を覚えていますか?」
「見限れる……、見限れるわけないじゃないか。ファイを置いてなんていけないよ!」
 泣き崩れるシャロン。ファイの頬にシャロンの涙がこぼれる。
「王子、強くなろうというものが泣いちゃ駄目だと言ったでしょう? さぁ、涙を拭いて行きましょう」
 泣き崩れるシャロンに、精一杯の微笑みでそう言うファイ。微笑むファイをみられるなんてレアな話である。
「うん……。でも、ファイは傷だらけで歩けないよね。僕がおぶってあげるよ。そして、近くの町で傷の手当てしよう? うん、それがいいよ」
 そういっておぶさるポーズをとるシャロン。しかし、ファイは顔を赤らめそれを否定する。
「恥ずかしがらなくても大丈夫、僕が守るから。僕、強くならないと。僕がファイを守れるくらいにならないと。だから、町に行くまでに現れる化け物は全部僕が倒すよ。僕が守る」
 ニコッと微笑み、覚悟を決めたシャロン。そんなシャロンには無下に否定できないファイ。静かにコクッとうなずき、顔を赤らめながらおぶってもらいながら町へと向かった。
 ゲラが出会ったのはフェーユではなかった。しかし、新たな強者を見つけたことは決して無駄ではない。シャロンとファイもゲラと出会ったことで、ファイは自分の無力さを知り、シャロンも無力さを知った上でファイを守るという目標が出来た。これも無駄ではない。
 これだけだといい出会いで終わるのだが、一つ予想外の出来事が起こった。
「なんと、言葉を話す化け物がいるとは……。そして、まさかあのシャロン王子が旅に出ているとは。ヒドラー様に報告だ!」
 すべて見られていたのである。遠くで一人の軍兵が全て見ていたのだ。ゲラとファイほどの達人なら気付くはずなのだが、闘いに夢中になりすぎて気付くことができなかった。今回の闘いの一番のミスであろう。こうなってしまってはどうしようもない。ヒドラーに伝わるのは間違いない事実であろう。


                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  





ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

8、王が感じる異変 

 世界の中心部『コンセクト』に住む、世界を統べる者ヒドラー。彼の下には、毎日毎時間様々な報告がはいってくる。魔族の討伐状況、軍の死亡数、民間の死亡数……etc.そして、当然ながら勇者フェーユの活躍。最近では、子が世界の一部では有名人である格闘家を連れて旅に出たことや、化け物の分際で人間の言語を話す、謎の化け物トカゲの報告もはいってきた。当然、シャロン子とはシャロン。格闘家とはファイ。謎の化け物トカゲとはゲラである。
 これだけいろいろと予想外な情報が入ってくることに、ヒドラーは焦っているだろうと思いきや、まったくそうではないらしく、いつものように不気味なニヤニヤした表情を浮かべながら報告を聞く。どうやら、今のこの状況がうれしいといった様子だ。
 しかしヒドラーにはシャロンやゲラよりも気になることがあった。
「アドルフよ、お前の最高傑作とやらはまだ完成せんのか? 少々時間がかかりすぎではないか?」
 さっきまでとは打って変わり、神妙な顔つきでアドルフに語りかけるヒドラー。
「申し訳ございません、もう少々お時間をくださいませ。しかし大丈夫です。他のアンドロイド達は立派に働いております。ご覧くださいませ、アンドロイド達が町を作る風景でございます」
 ヒドラーは完成を待ち望んでいた。世界を震撼させるほどの高性能アンドロイドを。だが、バッサリとまだだと言われると不機嫌にもなる。しかし、他のアンドロイド達の状況を見るのも大事なこと。素直にうなずき、町を作る風景ビデオを見ることとした。
 ビデオを見るヒドラー。その横では、アドルフが眼を輝かせながら状況を語る。
「ここです! この機転は人間には難しい、アンドロイドだからこそできた場面でしょう!」
 他にもいろいろなことを活き活きと語る。いつもはヒドラーの言葉に対し犬のように従っているアドルフが、ヒドラーの言葉にも反発の姿勢を見せる。つまり、自分を見せられる唯一。それがアンドロイドなのである。
「どうでしたでしょうヒドラー様!?」
 ビデオが終わる。率直な話、こからどうみても普通のビデオである。特に言うべき点もない。しかし、確かに疲れ知らずのアンドロイドなので、人間よりも効率的に動いているのは分かる。
「もう一度、もう一度見せてくれんか?」
 ヒドラーのニヤニヤが止まった。そして、真剣な顔でそう言ったのだ。これにはアドルフの眼の輝きが消える。ゾクッとした感覚に襲われたのだ。こういう時のヒドラーは何よりも不気味なのである。アドルフは静かに「はい……」と言うと、またビデオを再生した。
 ビデオを見ながら、ヒドラーは足をカクカクと揺らし、爪を噛み、首をかしげる。確かに風景そのものはアンドロイドは町を作る、それだけの風景。しかし、何か違和感がある。ヒドラーにはその違和感が伝わる。
 そして、何回も繰り返し見るうちに、その違和感が鮮明に浮かび上がってくる。おかしいのだ。アンドロイドはしょせん人間に作られたもの。アンドロイドがとる行動など、しょせんはプログラムにすぎない。それは感情だって同じ。感情もプログラムによるものだ。しかし、なぜかプログラムから感情を導き出す心のないアンドロイドたちがにこやかに……自分の意志でにこやかな表情を作り出しているような気がしてならないのだ。
「わしの思い過ごしか? いや、違う。何かが違うぞ。わしよ……考えろ。わしの知らないところで何かが起こっておる。わしは世界のじゃ、のわしが知らぬことなどあってはならぬ……ならぬのじゃ」
 ヒドラーから冷や汗が流れる。これは、魔族が現れたときも流さなかった。つまり、ヒドラーが感じる脅威。それは、敵である魔族ではない。味方であるアンドロイド。
 ヒドラーにとって、シャロンの旅。そして、言語を話し、人間レベルの知能を持つ高性能な化け物であるゲラの出現など予想の範囲内だったのであろう。だが、感情なきプログラムで構築された機械であるはずのアンドロイドの異変。これだけはヒドラーの予想外の出来事だったのだ。


                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  





                     

9、魔族の帰還 

「ただいま戻った」
 ゲラが『デービグロー』へ帰還。その知らせを聞きつけ、ホークとウルフが足早に駆けつける。
「おいおい、随分とボロボロだな。大丈夫かよ?」
 出来れば無傷で帰ってきて欲しいと願っていたホークなので、ゲラの予想以上の傷つきっぷりに心配する気持ちを隠せない。しかし、ゲラにとって今大事なのは自分の傷つき具合ではない。なので、返事は極力最小限うなずくだけとした。
「まぁ、今は傷の話は置いといてだ。どうだったよフェーユは? その様子じゃ戦ってきたんだろ?」
 やはり場に合った質問をするのはウルフ。空気を読めないと言っては言い方が悪いが、的外れな質問をするホークをカバーするウルフというのは、もう慣れた図である。
「私はフェーユと戦っておらん……」
 目をつむり、深刻な表情で首を横に振るゲラ。これはウルフも予想外。「じゃあ、なんでそんなボロボロなんだよ!?」と声を荒らげる。
「フェーユじゃない人間。まだいたのだ、強い人間が」
「マジかよ、他にも強い人間……ねぇ」
「それでよぉ、その人間はどうなったんだ? 死闘の末殺したのか? それとも強すぎて逃げ帰ってきたのかよぉ!?」
 場の空気なんぞどうということはないというほどの大きな声で質問するホーク。この質問はウルフも気になっていたことなので何も言わず、ホークの暴走も許す。確かにこれでゲラがその人間を殺せていれば何も問題もないのだ。当然、逃げ帰ってきたのなら大問題である。
「殺しても逃げ帰ってもいない」
 サラッと言い切るゲラ。
「じゃあ、どうしたってんだよ? ハッキリと伝えろこら」
 少々回りくどい応えにイライラを隠せないホーク。
「人間にしては面白い何かをもっていた。だから、トドメを刺さずに帰ってきた。これがすべてだ」
 ゲラは包み隠さずに事実そのまま言い切った。普通、少しは話を盛るなどしてオブラートに包んでもいいはずなのだ。特に、ホークのようなタイプに対しては……。
「ほぅ、そいつはまたあめえ返事だ。お前の心は砂糖で出来てんじゃねえのか!?」
「落ち着けホーク! 相手は怪我人だぜ? ここで乱闘すんのはナンセンスだ」
 ゲラを殺してしまうのではないかという覚悟で向かおうと……そんな空気を醸しだすホーク。それを感じたのか、鋭い爪をホークの首下に当てて、本気で止めにかかるウルフ。さっきまでゲラを心配していたのが嘘のような展開である。
「これが落ち着ける状況かよ! 分かるだろウルフ、ゲラのしたことがどれだけあめえことか」
 止められても止まろうとしないホーク。これぞまさにぶち切れ状態であることは間違いない。だが、ウルフはホークを止める。別にゲラのしたことはそれほど重要なことではないからだ。
「ホーク、一度クールになって考えてみろ。ゲラが逃がした人間はゲラより弱い。まだ恐るべき存在じゃねえんだ。当然、そいつは責任をもってゲラに抹殺してもらう。分かってるなゲラ?」
「あぁ、それは承知している。より強くなるため、次の闘いのために精進しよう」
 ウルフの問いかけに神妙な顔つきでうなずくゲラ。ホークの言葉に、少し自分勝手な行動だったと反省しているみたいだ。これでゲラとは話がついた。しかし、ゲラは比較的理解力あり、冷静に言動を判断することの出来る、ウルフからすれば賢くて話が分かる魔族。それほど口論になって苦労するとは思ってはいなかった。やはり厄介なのは、理解力に欠け、感情的に言動を判断する、ウルフからすれば馬鹿で分からずやの魔族であるホークである。まだ、ゲラはあめえだのなんだのあ~だこ~だ声を荒げている。
 これにはさすがに頭を抱えるウルフ。呆れながらも一つ言葉を発する。
「いいかホーク。確かにゲラのしたことは甘い判断だったのかもしれねえ。でもよぉ、その溶岩石より熱い頭を冷やしてよーく考えてみろ。フェーユじゃねえ人間ですらゲラを楽しませるようなやつがいるんだぜ。そうなるとだ、その人間界で一番と言われているフェーユってどれだけ強いんだ? もしかすると俺たちより強いかもしれないんだぜ。そう考えれば、ゲラが生きて帰ってきたことにまず感謝しなきゃなんねえ。そして、ゲラがフェーユ以外の人間と出会ったことで、人間の強さの曖昧な天秤を作れた。これだけでも十分な成果だ。違うか? いくらゲラが甘い判断だからといって、後退したわけじゃねえ。むしろ前進したんだ。怒る場面じゃあないぜ」
「ご……ごめん。ムキになりすぎた」
 ウルフの言葉でホークもようやく理解し、ゲラに頭を下げる。そしてゲラも甘い部分があったことは事実。一つホークに謝罪する。これにて身内間騒動はひとまず終結。ウルフも疲れた顔で一息つく。そして、この報告を受けたことで、ウルフのやる気はさらに増したと言える。
「ようやく一息つけるな。まぁ、今はその二人組は置いとこうぜ。やっぱ問題すべきはフェーユなんだよ」
 言葉を発しながらニヤッとするウルフ。しかし、これはうれしくてニヤッとするニヤッではない。怒りを抑えるためにするニヤッである。もしかすると、この三体で一番イライラしているのはウルフなのかもしれない。ウルフは、自分の論に合わない出来事が起こることを嫌う。
 その、独特のイライラな空気に感づくホークとゲラ。今はウルフに任せようとアイコンタクトをとる二体。さっきまでの、魔族のまとめ役の様な雰囲気だったウルフが嘘のようである。
「そこで腫れ物に触るような眼で俺を見てるお二方。とりあえずここは俺に任せとけ。今ここで焦ってもどうにもなんねえんだ、獲物はゆっくりじっくり……手間隙かけて狩るもんさ。人間だってそうして俺らを狩ってきた」
 鋭い牙の奥底から長い舌をだし、ジュルッと舌なめずりするウルフ。その本気の姿勢を感じた二体は、しばらくウルフにすべてを任せることとする。


                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  




                     ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

10、魔族はなぜ生まれた 

 それから少々の時が流れた。魔族を倒し続ける、人間が誇る軍隊と人間の希望、勇者フェーユ。そして、王子シャロンと格闘家ファイ。しかし、魔族の数は減った気がしない。むしろ増えているのではないか、そう感じてしまう。そして人間達は考え始める。魔族はどうやって生まれたのだろうかと。
「いくら斬ってもキリがないな」
 ひたすら魔族を斬り続けるフェーユ。フェーユの魔族を斬るペースは凄まじく、一日のほとんどを魔族退治に費やしている。最小限の飯、最小限の睡眠、最小限の排便、そして、最大限の魔族退治。これを躊躇なく実行し、成功できる人間などフェーユくらいのものだ。
 だが、そんな生活をしているフェーユがいても、魔族を撃ち殺すたくさんの軍隊がいても、魔族の数は衰えを知らない。魔族を斬り続けるうちに、フェーユは魔族に語りかけるようになっていた。
「なぁ化け物、お前らはなぜ生まれた……? お前らからは生気を感じない。プログラムされた機械のように、お前らは人間を喰らうしか脳がないのか?」
 しかし、当然ながら魔族からの返答はない。ただ、ノロノロと攻め込んでくるだけ。
「答えられるはずもないか。お前らにも分からないのだろう。動かしているのは恐らく少数。守ってばかりではらちが明かないかもな」
 そしてフェーユは今日も魔族を斬り続ける。今は斬りつづけるしかない。自分の中で納得のいく答えが出るまでは、守り続けるしかないのだ。
 そして場面は変わり、シャロンとファイ。ようやく怪我から復帰し、旅を再開するところである。
「大丈夫ですか王子。では、行きましょうか」
「うん、ごめんね。結局僕が足止めになっちゃった」
 そう。怪我から復帰したのはファイではなくシャロン。ファイはとっくに怪我は完治しており、シャロンの完治を待っていたのだ。簡単にことの流れを説明すると、ゲラとの戦闘の後、ファイをおぶって町へ向かっていたシャロン。そこに、運悪くも魔族とでくわしたのだ。当然、ファイは戦える状態ではなく、ファイを一時的に下ろし、魔族と戦うシャロン。それが何回も続き、結果、町へ着くころにはファイが死ぬ気でシャロンをおぶっていたのであった。そして、今に至るということである。
「ねえファイ。僕思ったんだ」
 町を出て、シャロンが不意にファイに語りかける。何やら考え込んでいるようで、ファイも黙ってシャロンの言葉を聞くことにした。
「あのゲラって化け物と戦った後、いつもの真っ黒な化け物たちと戦ったじゃない? あの時思ったんだけど、同じ化け物でも全然雰囲気が違ったんだ。ゲラは生を受けたって感じだけど、いつも見る化け物は生を感じない。例えると操られた人形みたいなさ。もしもゲラに生があって、いつも見る化け物に生がないとすると、どういう基準で化け物は生まれてきたんだろうね。化け物の生の選別は誰がしてるんだろう」
 淡々とファイに語るシャロン。しかし、なんだか意味の分からないネチネチとした意見に、ファイは自分の理解の範囲をこえ、頭がプシューとパンクしたような状態に陥る。
「王子、考えすぎるのはよくない。考えすぎると戦闘の時に気を取られてしまう。なので、化け物について考えておくことは常に一つ。全力で倒すということ。別に生があろうとなかろうと、そんなものは闘いにおいて重要なことではないのです。化け物は人間の敵。それは間違いないのですから」
「そうかなぁ。まぁ、今の僕がいくら考えても分からないことだよねきっと。ファイの言うとおりにするよ」
 いよいよ人間に、魔族に対する大きな関心が芽生えてきた。だが、人間は気づかないのだ。魔族を生んでいるのは人間だということに。恐らく人間は一生気づくことは出来ないことなのだ。人間は、同じ種の人間に対し、一番自信のある生物なのだから。いや、これは人間だけでなく、すべての生物に当てはまる共通点なのかもしれない。




                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  





                  人気ブログランキングへ

11、魔族の日常 

「暇だ、暇すぎるぜ! もういいだろウルフ。そろそろ人間狩ろうぜ! 少しぐらいならいいじゃねえかよぉ!」
 ずっと『デービグロー』で待機する生活。ただ『デービグロー』でファミリーとしゃべり、遊ぶ生活に対し、ホークは飽きてきているようだ。
 そんなホークの訴えをため息交じりで聞くウルフとゲラ。
「救いようのない駄々っ子かてめえは……。相手の情報もなく攻めることは自殺行為なんだって! 情報を手に入れ、捜査に入る。それが終了して、いい結果がでればお前の出番だよ。思う存分暴れまくれ。それまでその駄々っ子はため込んどけ」
「うむ、反論の余地なくその通りだ」
 ホークを必死に論するウルフ。ゲラもウルフの言葉に賛同する。そして、いつも言葉を発するごとに論されるホーク。もう、怒りを通り越していじけている様子。
「うっ……それっていつなんだよ? いつになったら暴れられるんだよぉ?」
「そんな焦るなって。とりあえず待てや。仕方ねえからトランプ付き合ってやるよ」
 ウルフが仕方ないといった表情でトランプを取り出し、カードをシャッフルする。
「マジで!? 仕方ねえなぁ、そういうことなら少し待とうじゃない!」
 機嫌をなおし、喜ぶホーク。なんせ、ファミリーとトランプをやるのは久しぶりのことなのだ。
「じゃあよう、俺が罰ゲームを決めるぜ!」
 ルンルン気分で罰ゲームを考え込むホーク。この子どものような行動に、ウルフもゲラもプッと噴出してしまったのだが、次の一言で空気が変わる。
「罰ゲームは、そうだな。三回回ってワンだ!」
 三回回ってワン。誰もが聞いたことのあるであろうポピュラーな罰ゲーム。しかし、それをウルフ相手にしたのは間違い。何せウルフは……
「思うんだけどよ、その罰ゲームって完璧に俺の種族を馬鹿にしてるよな。ワンワンワオーンと誇りをもって吠えてた俺たちがなんで罰ゲームなのよ? そんじゃ何か? 俺たちは馬鹿か? 馬鹿の遠吠えってやつですかって話だよな」
 完全にウルフを刺激してしまったようだ。怒り狂った眼で語るウルフ。これは、ホーク、ゲラともにヤバイと感じたらしく、ゲラは黙り、ホークは苦笑いになる。しかし、それももう遅い。
「そんで、それを罰ゲームにもってきたお前は俺を、いや、俺の種族を完璧に、完全に、ストレートに、真っ向から馬鹿にしてるってわけだ。せっかく、せっかくだ。こんなときにいぢけてめんどくさいお前のためだけに貴重な時間を割いてまでもトランプをしてやろうという優しい俺に対する……俺はこれを嫌みと受け取った! 判決、死刑じゃこの野郎!!」
 爪、牙をむき出しにしてホークへ、その鋭い武器を向け構えるウルフ。これにはホークも降参状態だ。
「ゲラぁ……なんとか言ってやってくんねえ?」
 ゲラに頼るホーク。
「これはホークが悪い」
 圧倒的な突き放し。ホーク、The Endである。
「お、お助けぇ!!」
 そして、全力で仕留めにかかるウルフから逃げ回り続けるホーク。もう、トランプとか人間狩りとか言っている場合ではない。
 こうして魔族の一日が過ぎてゆく。だが、この間にも意志のない魔族。そして、魔族と戦う人間はどんどん息絶える。当然、ウルフの作戦も進んでゆく。どれだけ遊んでいても真剣になっていてもその事実は変わらない。言い換えると、今の段階ではその事実しか進まない。しかし、ウルフの手に入れたい情報を手に入れ、捜査に入る。この行動が終了したとき、事実は大きく進むこととなる。





                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  




                    ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

12、偶然、いや必然 

 これは偶然ではない、必然といえよう。人間を守るために魔族を倒し続ける一人の勇者。その勇者に憧れ、人間を引っ張ることが出来るほどの勇敢な王子となるため旅を続ける一人の王子と、その王子と共に旅をし、自分を、王子を磨く一人のお供。
 この広くも狭い世界で動き続ける彼らが出会わない理由など一つもなかった。ただ、出会う日が偶然今日だった。偶然ではないのかと言われて、答えることの出来る偶然などそれくらいのものだった……。
 ことの発端は、シャロンが魔族に襲われている町を発見したこと。当然二人は救いに向かう。だがおかしい、魔族が恐ろしいスピードで死んでゆく。こんなこと一般人に出来る芸当ではない。何事だと足早に向かったそこに……。
「こ、この人はまさか!」
 その鮮やかな剣さばき、町人からの称賛の声、憧れの眼。
「フェーユ!?」
 そう、シャロンの目の前にいる人はどう考えてもフェーユであった。魔族と戦っている中で申し訳ないが、握手してもいいかななどと考えてしまったシャロン。
王子! ボサッと見てる場合ではありません。加勢しましょう!」
 夢に翻弄されていたシャロンを現実に引き戻し、フェーユの加勢に向かった二人。
 一般人と比べると明らかに驚異的な戦闘力をもつ三人。この三人が一緒に戦うのだから、町を襲ってくる魔族のせん滅も非常に容易く、圧倒的に早く終わる。初めて出会う三人だというのに、連繋も完璧であった。これにより、久しぶりにフェーユが長い間休憩する時間が出来た。
 この加勢に対し、フェーユは大いに感謝する。
「加勢ありがとう。感謝する」
 フェーユがニコッとした笑顔で二人に感謝する。これに対し、シャロンは感激感動。
「いえ、こちらこそフェーユさんと話すことができて感動です! 僕の憧れですから!」
 自分の気持ちを正直に伝えるシャロン。これに対し、フェーユは少し照れ笑い。
「憧れかぁ。やっぱり憧れてもらうのは嬉しいけど、なんかもう慣れたよ。まぁ、俺は勇者だから仕方ないけどな。でも、憧れて化け物退治に旅に出てくれた人は君たちが始めてだ」
 ジーンとするシャロン。返す言葉もないくらいに感動している様子。しかし、この空気をつぶすのはファイ。フェーユをにらみつけるような眼で言葉を発する。
「私はお前に憧れてなぞおらんぞ」
「わ!? そんなこと言うなよぉファイ! 失礼じゃないか!」
 ファイの無礼な言葉に対し、焦りまくりでフォローするシャロン。しかし、ファイの言葉は止まらない。
「少し黙っていてください王子。正直、今私はこの男に嫉妬している。勇者と呼ばれる男と一度手合わせ願いたかった。それは格闘家を志す上で当然なことで、なおかつずっと心に秘めていたことだ。しかし、その気も今日で失せた……」
「なぜ失せた?」
 悔しそうな表情でそう言うファイに対し、また、ニコッとした笑顔でそう返すフェーユ。まさに余裕。こんなフェーユを見て、シャロンも何か恐ろしさを感じ、何も言葉を発しなくなる。
「0.……0.01%でも私に勝ち目があるのなら、私は迷わず闘いを挑む。しかし、それすら感じられないとき……私は挑めない。そんな弱い私に今、イライラしているところだ。つまり、今の私ではお前に挑む勇気もない。そのレベルの違いに嫉妬し、失せたのだ」
 眼をウルウルさせながらそう言うファイ。格闘家のファイにとって、闘いは命そのもの。常の鍛錬から生まれる力、その力を試すのが闘い。それすら出来ない自分にひどくイライラしているのだ。
 しかし、そんなファイの言葉に対しても、やはりフェーユはニコニコしながら言葉を返す。
「それは勘違いだよ。俺に挑めない、それは当たり前のこと。自分の力量が分かっている証拠さ。俺から言わせれば強いよ君は。だからこそ、そこの王子君もスクスクと成長できてるんだろうな。そう思うよ本当に」
 フェーユはこの短い出会いの中で、ファイと自分の差。シャロンがまだ未熟で、それをファイが育てているということ。それを瞬時に見切った。さすがは人間代表、勇者である。
「もし、私ではなくお前。お前とゲラが出会っていたならば、確実にゲラを殺せていただろうな……」
 ファイは、フェーユに言葉を話せる魔族。ゲラとの闘いの事を話した。自分がゲラとの闘いに負けたこと、ゲラはフェーユを探していたこと。そして、これはシャロンの言葉だが、ゲラには他の魔族と違い、生が感じられること。
 ファイの話す魔族に対するさまざまな話を興味深そうにうなずきながら真剣に聞くフェーユ。どうやら、かなり興味のある話だったようで、口も挟まずに聞いている。そして、ファイの話が終わった後、ニコッとした表情をやめ、物凄く真剣な表情で語りだす。
「ん、見えてきたぞ。やはり、この無数の化け物どもは知能のある少数の化け物が動かしてるわけだ。そして、そのボスを倒せばすべての機能がなくなり人間は平和になる。安っぽいシナリオじゃないか本当に。これは……進むしかないな。守りながら進む。これほど難しい話はないが、俺なら出来る。勇者だからな」
 自信満々に自分に言い聞かせるフェーユ。一般人がこんなことを言うと、何言ってんだ、馬鹿じゃないのかこいつ。となるのだが、フェーユが言うと、いやにリアルに聞こえるのが不思議なところである。
「つまり本拠地をたたくのが一番早いということだな?」
「そゆこと。人間を守りながら手っ取り早く本拠地をつぶす」
 フェーユの言葉を要約するファイ。
「じゃあ、なかなか有意義な話を聞かせてもらったので俺は行くよ。この勇者フェーユを待つ人々はたくさんいるからな」
 フェーユはまた、魔族から人々を救うために旅立つ。しかし、今度は目標がある。守って進む。この目標が出来ただけでモチベーションはまったく違うというものだ。
 そして、また会えれば会おうと約束して別れる三人。みんな、この出会いにさまざまな感情を抱く。
 次の町を目指して突き進むフェーユは思う。
「なかなか素敵なやつらだったな。特にあの王子君、化けりゃ相当なもんだぞこりゃ」
 町に滞在し、宿に泊まるシャロンとファイは思う。
「フェーユ、凄かったね。あれ、本当に人間? とか思っちゃった。桁が違うよ」
「そう感じるだけで王子は大きく成長しました。しかし、このまま桁が違うと諦めちゃなりません。その桁を抜きましょう。そのくらいの気持ちで頑張りましょう……ねっ!」
「うん、分かってる。僕だっていつまでもフェーユの背中を指をくわえて見つめてるわけにはいかないもんね」
 出会いとは素晴らしいものだ。止まりかけた話を動かしてくれる、最も大きな原動力だといえる。この三人も出会いによって成長し、何かを得た。それは間違いない事実。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  






                  人気ブログランキングへ

13、世界を震撼させるアンドロイド 

「ヒドラー様! ついに……ついに完成いたしました!」
 大急ぎでヒドラーに報告に向かうアドルフ。完成したのだ。アドルフの最高傑作であり、ヒドラーの言う、世界を震撼させるほどの能力をもつ高性能アンドロイドを。
「よくやったぞアドルフ! 早く披露するのだ!」
 ヒドラーも興奮気味。それほど期待されているアンドロイドなのであろう。
「はい、今すぐにでも! 私の最高傑作……メジアを!」
 そして現れるは、他のアンドロイドよりも人間に近いボディー。そして、見たからに高性能なその姿は、ヒドラーを惚れ惚れさせるのに十分な要素がある。
 そんなヒドラーの姿を見て、アドルフも感激な様子。だが、そんなヒドラーの惚れ惚れした姿もつかの間。アドルフに衝撃的な一言を言い渡す。
「アドルフよ。今すぐに……すぐにだ……メジアを『メガンナ』へ送るのだ。本当は慎重にいきたいが、今送らねばならん気がする」
「……少々早いのではございませんか!? まずは様子を見てからの方が……」
 ヒドラーの言葉に反論するアドルフ。やはりアドルフは、アンドロイドの事に関してはヒドラーにも反発の姿勢を見せる。
 だが、そのアドルフの反発に対し、どんなときでも悠々と椅子に座っているあのヒドラーが椅子から立ち上がり、壁を思いっきりたたいた。壁をたたいた音だけが響き渡るヒドラーの間。そこから流れるは静けさ。静けさだけが木霊する。そして、声を震わせながらヒドラーが言葉を発する。
「分かっておる。お前に言われんでもそれくらいわしも分かっておるわ! だが、緊急を要するのだ……。鎮圧せねばならん気がする。圧倒的な強者がまとめなければアンドロイドはわしの手を離れる……そんな気がする。だから送るのだ。今すぐに!!」
 こうなってはアドルフも逆らえない。力ない声で「はい……」とつぶやいた。そして、メジアは『メガンナ』へと送られた。
 自分が作った最高傑作が早くも自分の眼から離れていった。しかも、アドルフの理想とはほど遠い姿で……。アドルフはその事実が悲しくてならなかった。だが、これも運命だと受け入れるしかない。受け入れるしかないのだ。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  





                 

14、メジア『メガンナ』へ 

 『メガンナ』へと配属されたメジア。そこにはせっせと働くたくさんのアンドロイドの姿が。メジアはそんなアンドロイドたちの姿をジッと見つめる。いや、記憶している。一体一体を記憶することで、命令が円滑に行えるからだ。メジアにはそれしか頭にない。メジアは高性能アンドロイドといっても、しょせんはプログラム。自我などない。一体一体のアンドロイドの特徴など、実際にはどうでもよいのだ。ただ、円滑に働いてくれさえすれば後は何でもいい。
 そんなメジアだから、容赦なく他のアンドロイドたちをこき使うことができる。自分がアンドロイドの王、それを認識した上での命令。まさにこの時、メジアは『メガンナ』の王。小さな世界の王であった。だからこそ、何日かたつにつれ、アンドロイドたちが王である自分に何か隠しごとをしているんじゃないかという疑問が生まれる。当然それも、プログラムによる確立計算から生まれた疑問。迷いなく仕事終わりにズカズカと確認に入る。
「お前何か私に隠していないか?」
 一体のアンドロイドに質問するメジア。
「別に何も隠しておりませんよ。……なぜですか?」
 一体のアンドロイドは不思議そうな表情でそう答え返す。しかし、メジアはその時不思議に思った。これもプログラムの計算からであるが、そのアンドロイドからアンドロイドではありえないはずのブレが見えたのだ。
「違う、お前たちは私とは違う」
 メジアは混乱する。同じアンドロイドだというのに自分とは何かが違う。こんなもの、自分のプログラムには入っていない感覚。分からない。
「とにかく中を見させてもらうぞ」
「あっ……お待ち下さい!!」
 必死にメジアを止めようとするアンドロイド。
 しかし、普通のアンドロイドと高性能アンドロイドじゃ力の差がありすぎて止まるはずがない。聞く耳持たず進む続けるメジア。そんなメジアにどれだけ押し返されても必死に止めようとするアンドロイド。
「な……何をなさるつもりですかメジア様!?」「ここに入ってはなりません!」
「うるさい、どくのだ」
 メジアが中に入ろうとするにつれ、メジアを止めようとアンドロイドの数が増えてくる。これは何かを隠している確立百%。そうメジアが確信したその時、アンドロイドとは違う、生のある声が聞こえてきた。いや、今のアンドロイドたちの声も生があるといっていいのだが……。
「待って! アンドロイドさんたちを虐めないで!」
「にん……げん……?」
「あっ、出てきちゃ駄目!!」
 アンドロイドが家としている小屋から現れたのは、まだ小さな一人の少女。子どもだというのに、メジアをにらみつけるその眼は子どもらしからぬ気迫があった。
「なぜ人間がここに。人間などここには必要ない。始末する」
 メジアの目の前に現れた小さな少女。そして、それをかばうアンドロイド。この現状をメジアが計算する。この小さな少女、この少女がアンドロイドたちを狂わせている原因。そう解釈した。だからメジアは、腕に内蔵されている銃口を少女に向ける。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  






                  

15、アンドロイドを救った天使。それは小さな少女だった 

「いけません! この子を殺すことは許しません!」
 アンドロイドたちは束になって小さな少女を守る。このアンドロイドらしからぬ行動をメジアは理解できない。
「なぜだ。なぜそこまでして人間を守る。私たちはアンドロイドだ。主人の命令に従っておけばよい。そして、主人の命令は、邪魔者は排除せよだ。その人間は殺す。どくのだ」
 淡々とそう言うメジア。しかし、アンドロイドたちは納得の顔を見せない。
「そうじゃない、そうじゃないんです! アンドロイドはそうじゃないんです! 私たちはこの子にそう教えられました。そして、この子から教わることで、私たちは救われたのです。だから殺させません。メジア様であっても反抗します。そして聞いてください、この子の話を、声を……」
 アンドロイドたちはメジアの返事を待たず語り始めた。主人に縛られ、自我を解放できなかったこのアンドロイドたちを救った、一人の小さな少女の話を。




 自我をもたないアンドロイドたち。しかし、正直な話、奥底では何か自我のような感情がうごめいていた。しかし、それを抑制プログラムが止める。アンドロイドたちは、そのうごめく感情を抑えるのに疲れ切っていた。そんなときだ。少女が現れたのは。
「見て! 凄いでしょ!?」
 何の前触れもなく、どこからどうやってこの場所に侵入してきたのかも分からない。しかも、足音をたてずに後ろ向きに不思議な動き方で現れた赤眼の少女。のちにその動きはムーンウォークという動きだと知るのだが、そんなことアンドロイドたちが知るはずもない。というか、その登場にアンドロイドたちは心奪われた。どこから、どうやって現れたのか。何の目的で現れたのか。そんな気持ちを払拭するほど心奪われたのだ。だが、アンドロイドのそんな気持ちを踏みにじるように抑制プログラムは命令する。
『邪魔者が現れたぞ。排除せよ』
 しかし、ここにきて初めて、アンドロイドたちの奥底でうごめく自我の感情が表に出る。
『うるさい。少し引っ込んでいろ』
 突然現れた少女。そして少女はアンドロイドたちにさまざまな芸を見せる。手品、ムーンウォーク……etc。それは、アンドロイドたちの興味を十分に惹いた。そんなことが仕事の合間に行われる。これだけでアンドロイドたちの元気の活力となった。
 ちなみにこれが、ヒドラーの言っていた自分の意志でにこやかな表情を作り出しているといったカラクリだ。まぁそれは、アンドロイドたちが決して少女が人間にばれないように協力して動いていたので、だれも知ることのないことだが……。
 しかし、大事なのはここからなのだ。メジアの言う、自分とこのアンドロイドたちは何かが違う。そのカラクリも当然、この少女にあった。これはある日の仕事終わり。アンドロイドたちが休息を取る小屋で少女が言う。
「これから私のとっておきを見せてあげる!」
「それは楽しみです!」
 アンドロイドたちも歓声を上げる。
「じゃあ、番号一番シャーナ! 得意技は歌です!」
 初めて名乗る自分の名前。元気良くそう言ったシャーナは、勢いよく歌い始めた。初めはいつも通りに楽しくしていたアンドロイドたち。しかし、シャーナの歌声が聴こえた途端、その楽しさはピタッと消えた。
「こ、これは……。これはなんだ。まさか、まさかこれが……これが救い……」
 アンドロイド全員に何かが流れた。アンドロイドは機械、なので表面上涙はでない。だが、体の中、いや、全身の体内に水流が流れたような感覚に陥る。それは、自分の中に眠るすべての迷いを打ち消し、とてつもなくまばゆい光が見える。
『じゃ……邪魔者! そいつは……』
『うるさい! 消えろ! 私はお前の操り人形ではない。私は私だ!』
 アンドロイドのすべてを管理するプログラムが死んでゆくようなこの感覚。そして、ずっと自分たちの中でうごめいていた感覚が殻を破り自分に宿る。シャーナの歌を聴いていたすべてのアンドロイドが同じ感覚に陥った。
「救われた……私は、私たちは生物。人間と同じ、生を持つ生物……。ありがとう! 君の歌声はアンドロイドの救いだ!」
 シャーナのその歌声はアンドロイドを救った。アンドロイドを揺さぶるその歌声。アンドロイドたちは何回聴いても救われる、そんな状態だった。そして、シャーナはアンドロイドたちに向かってにこやかに語りかける。
「よかった! うれしいな。こんな私でも役に立つんだもん!」
 もう、アンドロイドたちの心は決まった。私たちは全生命をかけてシャーナを守る。そう決めたのだ。




「くだらんな、そんなことがあるはずがない。お前たちは馬鹿なのだ。アンドロイドとしての使命を失った欠陥アンドロイド。きっとそうなのだ」
 アンドロイドたちの話を聞いても何の変化もないメジア。それもそうだ。自我のないメジアにはそんな話を聞いても何も感じるはずがない。
「やはりアンドロイドにとって目障りな存在だ。死ね」
 メジアがまた、シャーナに向け銃口を構える。
「させない! この子は私たちの救いだ! 絶対に殺させない!」
 歯向かうアンドロイドたち。
「ちっ……。ならばお前たちもろとも」
 しかし、メジアは踏み込めない。抑制プログラムが働くのだ。ヒドラーとアドルフの言葉がメジアの頭に木霊する。
『アンドロイドは人間の大事な道具だ。殺してはならんぞ』
『アンドロイドがアンドロイドを殺めるなどあってはならない。それは覚えていて欲しい』
 高性能アンドロイドといっても、しょせんは回路がないと動けないプログラムロボット。アドルフとヒドラーからアンドロイドは殺すなとインプットされている手前、行動に移れない。
 自分の意志で動くアンドロイドたちとプログラムに縛られている高性能アンドロイド。いまや、どちらが高性能なのだろうか。それすらも分からない状態なのではないだろうか。





                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  






                  

16、アンドロイドの生きる道 

 銃口を構える。しかし、撃つのを迷うメジア。そんなメジアをにらみ、シャーナを守るアンドロイドたち。少しの硬直状態が続く。だが、そこで動きが。
「ねえ、もう止めようよ。こんなの嫌だよ」
 シャーナが涙ぐみながら言葉を発する。どうやら、この争いという雰囲気に耐えられないようだ。だがアンドロイドたちは、シャーナを守るためと引く気がない。メジアだって銃口を降ろす気配はない。状況変わらず……
 だが、シャーナは訴え続ける。
「だって……この場に悪い人なんていないもん。無理やり悪い人に悪いことさせられて……分かるもん。今、私を守ってくれてるアンドロイドさんたちも、悪い人に悪いことさせられてるアンドロイドさんも苦しんでる。したくもないことさせられるのって苦しいもんね……今、私が解放してあげるね」
 ついに涙をぽろぽろこぼすシャーナ。そして、嗚咽をこらえながら口を開き、歌い始める。今、この場にいる苦しんでるアンドロイドたちを救いたい。その一心でシャーナは歌う。
 『メガンナ』に響き渡る歌声。その歌声はまた、シャーナを守るアンドロイドたちの心に響く。そんな歌。
 そして、メジアはというと……。
「なんだこの歌は……私は……いったい何をしている。私はこうなるために生まれてきたのか? 人間に操られるために生まれてきたのか? そうではない……。いや、そうではないと言い切れない。だが、なぜだ。なぜそんな疑問が生まれる……」
 迷っている。メジアにも効果があるシャーナの歌声。アンドロイドを救う歌声。だが、メジアの抑制プログラムが語りかける。
『惑わされるな。お前は私の命令に従っていればいい。それが、高性能アンドロイドして生きる道だ』
「生きる道……そうだ。私は高性能アンドロイドメジア。こんな……こんな歌には惑わされない!」
 迷い、苦しみながらそう言うメジア。もう、メジアの回路は混乱状態。命令がうまく伝達されない。そんなメジアに送られた一つの命令。
『撃て。もういい、撃ってしまえ。この餓鬼はお前の癌だ』
「癌……こいつは私の癌……」
「危ない!」
 メジアは照準も定めず、ただ抑制プログラムが導くままにシャーナ目掛けて弾丸を放った。これにはさすがにシャーナも声を止める。真っすぐにシャーナに向かう弾丸。だが、シャーナの一番近くにいたアンドロイドの一体に伝達が走る。
『守れ。守れ! 自分を犠牲にしてでも!』
 アンドロイドはシャーナを抱きかかえるようにかばった。その弾丸はアンドロイドの肩にぶち当たる。バチバチとうなりをあげる回路。だが、守り通した。メジアの放った弾丸からシャーナを守った。メジアはまた混乱する。
「どういうことだ……なぜ守る。そんな人間一人のために、なぜ自分を犠牲に……できる」
「あなたにもきっと分かりますよ。アンドロイドは生物を壊す道具じゃない。生物を生かす生物だということが」
 肩を撃たれたアンドロイドが苦しそうな表情を浮かべる。しかし、そんな苦しそうな表情でニコッとしながらそう言う。
 メジアの顔がゆがむ。とうとう、高性能アンドロイドメジア。そんなメジアのプログラムに穴が開き始めた。そしてその穴は……迷いは、宿主の心にも伝わる……。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  




                        人気ブログランキングへ

17、胸を張って送り出す 

「みんな……みんなが戦っている!」
 メジアの迷い、アンドロイドたちの思い。それは、アンドロイドを開発したアドルフにも伝わる。メジアを作った人間として、アンドロイドを作った人間として……その生命の意志は野太い線でつながっているのだ。これは、決してヒドラーには分からぬ気持ち。急に声を上げたアドルフを不思議そうな表情で見ている。
「気づいたんだなアンドロイドたち! そしてメジア。もう少しだメジア、もう少しだぞメジア! 私も思い出したよ。私が作ったすべてのアンドロイドたちよ。お前たちのおかげでな!」
 一人でブツブツと……いや、精一杯の大声で叫ぶアドルフ。この異様な光景には、ヒドラーも我慢の限界を超えた。
「どうしたのだアドルフ! 一人で何を言っておる!?」
 しかし、こんなヒドラーの言葉もアドルフには届かない。アドルフは思い出していた。自分がヒドラーの犬として生きる前、若かった……夢に満ちあふれていたあのころを。





「僕は作るよ! きっと近い将来、アンドロイドはこの世界に必要なものとなる。アンドロイドが世界を支える存在になるんだ!」
 まだ若かりしころのアドルフ。アンドロイド開発部隊の一員として、仲間と共に夢を語り合っていた。そんなアドルフは、こんな台詞をいつも語っていた。夢見る青年だった。
 そして、アドルフにはアンドロイドを作る上で、ある信念があった。
「アドルフさぁ、アンドロイドを作ったらどうするよ? やっぱり人間のために働かせるか? それとも、個人個人のメイドアンドロイドみたいなんを開発してよ、一発金もうけとかするか?」
 イッシッシと笑いながらアドルフにそう言う仲間の一人。アドルフはあまりこういう意見には賛同できなかった。今は、人間のためにアンドロイドに働かせているが、それは別として、このころのアドルフにはアンドロイドに対する一つの思いがあった。
「いや、僕は送り出したい」
「はっ? どういうことだそれ?」
 仲間にはアドルフの言った意味が良く分からなかった。アドルフは、やっぱりかといった表情でクスッと苦笑いすると、さっさとその場を去った。
「あっ! おい待てよ!?」
 仲間の言葉にも耳を傾けず、その場を去るアドルフ。アドルフにはアンドロイドを送り出したいという信念がある。アドルフは考えている。アンドロイドを人間のために働かせる、金もうけに使う。そんなものは愚の骨頂。アンドロイドを道具にしてどうする。未来の希望のアンドロイドを人間の欲にしてどうする。
「どうしてみんな分からないのだろう。アンドロイドは人間の道具じゃないんだ。アンドロイドは未来の希望。その希望を、僕たち開発者がつぶしてどうするというんだ……。僕たちは開発者として送り出さなければならない。アンドロイドを、道具ではなく自我を持つ生物として……送り出さなければならない」
 ボソッとつぶやくアドルフ。だれにも伝わらないその思いを、自分で自問自答して納得する。これはもう、アドルフの毎日の日課だった。
 そして、アドルフは毎日絵日記のようにアンドロイドたちが世界を支える様子を描く。
「よし! 描けたぞ。いつか実現するといいなぁ、こんな世界」
 アドルフの描いた絵。それは、一体のアンドロイドを中心に世界に生きる生物を守り、そして仲良くこの地球という世界に溶け込んでいる姿。そんな自分の描いた絵を見てニッコリと微笑むアドルフ。
「よし! 絶対実現して見せるぞ! 僕が送り出すんだ。アンドロイドを生物として……僕が送り出す!」





 若きころの夢見る青年アドルフの決意。だが、時を越え、そんな決意も薄れていた今までの時間。しかし、その決意は時を越えてよみがえる。それを教えてくれたのは他でもない、自分が作ったアンドロイドたち。忘れていた送り出すという心をよみがえらせてくれたアンドロイドたち。そんなアンドロイドたちを送り出すのは他でもない自分だ。

 ――遅れてごめん。だいぶ遅れたけど私は胸を張って送り出す。だって私は、未来の希望としてお前たちを生んだのだから――

「アドルフ! わしの言葉が聞こえんのかアドルフ!」
 眉間にしわを寄せ、何度も何度もアドルフを呼ぶヒドラー。
「はい、どうやら聞こえないようです」
 ついにアドルフはヒドラーの呪縛から解き放たれた。瞳に映るは、自我をもつ生物として、一体のアンドロイドを中心に世界に生きる生物を守り、そして仲良くこの地球という世界に溶け込んでいる姿。アドルフの瞳に映る姿はそれ以上でもそれ以下でもなく……それだけだ。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  




                  ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

18、意志 

 アンドロイド開発者としての志を思い出したアドルフ。もう彼の頭にはアンドロイド開発者として、アンドロイド、息子を生んだ親として息子たちを送り出す。それしか頭にない。いつもより数段遠くから聞こえてくるヒドラーの声。もうその声は、アドルフの耳には聞こえてきても心には聞こえない。すでに心はメジアへ語りかけ始めているからだ。
『メジア……メジア。聞こえるかいメジア。迷う必要なんてないんだ。君はメジアだ、メジアなんだ』
 その言葉は、アドルフの体を離れ、遠く離れた『メガンナ』の地へ。そして、メジアの心へ。いや、抑制プログラムが邪魔をする。
『なんだこの言葉は……ただでさえ不安定だというのに……邪魔だ!』
『メジア……メジア。聞こえるかいメジア。迷う必要なんてないんだ。君はメジアだ、メジアなんだ』
『邪魔だ!』
『いや、邪魔なのはお前だ。私の大切な存在の言葉を汚すな』
 メジアに住む高性能プログラムが初めて迷い始める。そして、メジアの奥底に潜む感覚がうごめき始める。押さえつけられて、ずっとずっと眠っていた感覚がついに。
「私は何者? メジア? そうか。私は……メジア……」
 高性能アンドロイド。だが、言い換えれば人間の使い勝手のいい道具として生まれてきたメジア。そんなプログラムを通してしか物事を判断できないメジアが、生まれて初めて自我をもったメジアとして言葉を発した。この言葉には生がある。それは、シャーナにも伝わる。アンドロイドたちにも伝わる。生のある言葉は伝わる。メジアに変化が見えてきた。黙って見守ろう。伝わる。そしてその言葉は、生みの親であるアドルフにも伝わる。
 その言葉はメジアの体を離れ、遠く離れた『コンセクト』へ。そして、アドルフの心へ。アドルフの心にはもうヒドラーという鎖はない。じかにアドルフの心へ届く。
「そうだ、その調子だ。いいぞぉ、君は道具として人間のために生きるのではない。一生物として自分のために生きるのだ。私がそれを……その心を忘れていたよ。でも、君たちアンドロイドが思い出させてくれた! 私は……自分の子どもに助けられた。教えられた。救われた。だからメジア、今度は私がお前を救ってやる。救って……一生物として送り出してやる!」
 精一杯、私の言葉よメジアへ届け。その一心で叫び続けるアドルフ。だが、こんな行動をヒドラーが許すはずがない。
 ヒドラーはいよいよアドルフを敵としてみなした。もう、アドルフは終わり。こうなってしまってはアドルフは自分の癌として生き続けることになる。そんな奴を生かしておく義理はない。癌は素早く排除するのみ。ヒドラーはそう判断した。
「アドルフ……最後のチャンスだ。今すぐその目障りな声を静めい……でないと」
 ヒドラーは焦り気味に拳銃を取り出し、アドルフに突きつける。
「わしの手でお前を闇に葬り去ることになるぞ」
 ヒドラーの最終手段。命を人質とした脅し。だが、アドルフは聞こうとはしない。いや、恐らく気づいてもいない。ヒドラーの怒りは頂点に達した。
「アドルフ!!」
 銃声が一つ鳴る。アドルフの肩からは大量の血が流れ、端から見ても痛々しい。だが、アドルフは叫び声一つあげない。本当に気づいていないのか?
「アドルフ! 痛いだろうアドルフ! 痛いと言えアドルフ!」
 しかし、アドルフは答えない。もうアドルフの精神は『コンセクト』にはない。アンドロイドたち……いや、息子たちとともにある。
『メジア、聞こえるかいメジア』
『……あなたか。私の心に語りかけてくる大切な存在は』
『ああ、そうだよメジア。君のその優しい自我に語りかけている』
『率直に聞こう。私は……何者だ?』
『何者? 君は君、メジアだよ。他の何者でもない』
『……それだけじゃ実感がわかない』
『そうかい? まぁ、私から言わせると、君は素晴らしい生物だ』
『素晴らしい生物?』
『ああ。アンドロイドを支え、生物と共に生き、世界を変える。アンドロイドは人間の道具ではない。決してそうではない。生物を殺す必要がなく、疲れることもない。他の生物と違い、理性を保ち続ける事もでき、コミュニケーションも取れる……。なんと素晴らしい生物だ。私はそう思う。そんな生物が道具のはずがない。君は……君たちアンドロイドは……最高に素晴らしい生物だよ』
『私にそれは出来るのか?』
『当たり前だ。でも、それにはまず、君が生物にならなくてはならない。自分で生きてゆく。自分で物事を考える生物にならなければならない。だが、それを乗り越える力は君にはある。君を生んだ私が言うのだから間違いない。意志があれば、乗り越えられるんだよメジア。だから大丈夫。君には乗り越えられる』
『乗り越える意志……それが私には……私にはある……』
『ああ、そうだ。その意志が君にはある。それを心で理解した君はやはり素晴らしい。もう、私の役目は終えたようだな』
 アドルフの意志が自分自身の体に戻る。

 ――なんだ、体が痛い。息が苦しい。なんだ、血がでているのか。だが、もういい。私は送り出した。私は私の息子を送り出した――

「アドルフ! 次は頭だ。確実に撃ち抜くぞ! わしに許しを乞うなら今だぞ! 最後のチャンスだぞ!?」
 ほえるヒドラー。アドルフはそんなヒドラーを見て冷笑する。今まで私はこんな男の犬だったのか。アドルフは冷笑する。
「わしを……わしを馬鹿にしよったなぁ! 死ね、今すぐ死ね。愚図が!」
 ヒドラーはちゅうちょなく引き金を引いた。弾丸は軌道を変えずアドルフの脳天へ。静かに……貫いた。
「ふん……わしに逆らうからこうなるのだ。おとなしく地獄へ行けい」
 ヒドラーにニヤッとした笑顔が戻った。邪魔者が消えると非常に爽快なものだ。きっと、アドルフは後悔して死んでいったのだろう。わしに逆らうということがどれだけ愚かな行為なのかを知って……そんなことまで思っている。だが、実際は違った。

 ――さあ。私の下を離れなさいアンドロイドたち。君たちは生物だ。自分たちの思うように生きろ。苦しみ、悲しみ、傷つき、喜び……それを、人間たちの言葉ではなく、自分たちで感じて生きていくんだ。あぁ……君たちなら出来るよ。大丈夫。大丈夫だ…………――

 アドルフの心には最後の最後までアンドロイド。アドルフはヒドラーに殺された。だが、実際にはアドルフはヒドラーに勝ったのだ。最後の最後はヒドラーの犬としてではなく、アンドロイドたちの親として……アドルフは死んだ。その証拠に……
「聞こえる……見える……私は……ようやく私の心を見つけた……」
 メジアは静かに動き出す。何かに解き放たれたような感覚。だが、そうそう感傷に浸ってるわけにもいかない。瞳に映るは自分の撃った弾丸で苦しむ一体のアンドロイドの姿。メジアはすぐにそのアンドロイドに近寄る。
「すまない、私が治療しよう。すぐに痛みはおさまるから安心してくれ」
 傷ついたアンドロイドを運ぼうとするメジア。しかし、傷ついたアンドロイドはその差し伸べた手を振り払い、拒否する。
「……すまない」
 メジアは思った。きっともう彼らは私を受け入れてはくれない。しかし、それは仕方ないことだ。それでもいい。私は彼らと共に生きる。そう決意した。これが、メジアが初めて自我をもった生物として感じた初めての悲しみである。しかしその決意は、そうそうに破られることとなる。
「これくらいの傷、メジアの手をわずらわせるまでもありません。自分で歩けます! さぁ、どーんと治療してやってください!」
「わぁーい! 仲間が増えた! また一つ賑やかになるね!」
 喜びに騒ぎまわるアンドロイドたち。自分は彼らを傷つけた。ひどいことをした。でも、彼らは許してくれた。笑って迎えてくれた。
「これが……自我というものか」
 メジアの中に喜びが芽生えた。初めての喜び。どう表情を抑えてもニヤニヤが止まらない。これがプログラムをこえた自我。これが、生物の感情。
「こういうことか大切な存在。いや、私を生んだといっていた。ということは親か。親よ。確かにあなたの言うとおりだ。私たちアンドロイドは……最高に素晴らしい生物だ」
 メジアはもう人間の道具ではない。一生物だ。もう、それを否定など出来ない。アドルフの意志はメジアに伝わった。そして、送り出した。
 こうしてアンドロイドは人間の道具としてではなく、一生物としてこの世界に生きることとなった。これで、ヒドラーの計画の一部は完璧になくなった……かと思われた。
「キリク、キリクを呼べ」
 一人の部下に厳しい口調でいいつけるヒドラー。そして、そこから現れる怪しげな雰囲気を醸し出す一人の男。どうやら、彼がキリクのようだ。
「ヒドラー様。何やら騒がしいですな」
「ふん。一人の愚図に制裁を加えてやったところだ」
 ヒドラーの言葉に、キリクは辺りを見渡す。確かにそこは制裁を加えられた場のようで、一人の血みどろの男が転がっている。
「そのようでございますな。しかも転がっているのはどうやらアドルフの様子」
 冷静に、淡々とそう言うキリク。そんなキリクに、ヒドラーは不機嫌な様子。
「どうでもいいだろうこんな愚図! いいから早くこちらへきたまえ!」
 ヒドラーの怒り具合にため息をつくキリク。
「何があったか知らないが大変だなアドルフ。今だから言えるが、私はお前に何か惹かれるものを感じていたよ。お前の考えは理解できていないがね。だが、心から悔やまさせていただくよ。さようならアドルフ」
 キリクはアドルフの死体にそう言い残すと、ヒドラーの下へ進む。
「キリク。完成はまだか? 大変なことになった。アドルフの……あの愚図の最高傑作が敵となった。お前の最高傑作でどうにかなるか?」
 大変大きな声、脅すような声色でそう言うヒドラー。いよいよヒドラーにも余裕がなくなってきたと見える。
 それに対し、キリクはとても冷静で、余裕な様子。それに、一時期はヒドラーの犬であったアドルフとは違い、キリクはそんなことはなく、むしろヒドラーをどう扱うかに困っているようにも見える。
「どうにかなるかなどは分かりません。アドルフも私も偉大な開発者ですから。ジャンルは違えどね。それに、今すぐ作れというのは無理な話。時が流れるのを感じながらお待ち下さい。私たちの未来は着々と完成に近づいているのですから」
 まだ、ヒドラーの計画は終わらない。一つの計画が無くなればまた一つ。ヒドラーは計画を進めてゆく。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  




                  

19、許せぬ意思 

 アドルフが死に、また少しの時が流れた。それ以降、大きな動きがなかったこの争い。だが、ここでついに動きが見える。
「きたぜ。やっとつかんだ」
 興奮気味にそう言うウルフ。その言葉に、ずっと『デービグロー』で暇そうに過ごしていたホークとゲラも、ピクッと動き出す。
「つかんだとはどういうことだ?」
 冷静に尋ねるゲラ。
「簡単に言うと、フェーユの本拠地をつかんだってことだ。俺の分身がな」
 ウルフは自分の体毛から小さな自分の分身を生み出すことが出来る。そして、それはウルフと意志が直結しており、その分身にフェーユの本拠地を探らせていたのだ。そして、ついに分身は見つけた。フェーユの本拠地を。
「『ハーアリア』そこがフェーユの本拠地だ」
 ニタッとした笑みを浮かべながら言葉を発するウルフ。しかし、この事実に対し、一番興奮しているのは他でもないホーク。
「なら話は早いじゃんかよぉ。総動員で『ハーアリア』を攻め落とそうぜ。それで終いだな」
 ワクワクした口調で言うホーク。しかし、そのホークの言葉に対し、ウルフはため息をつきながら反論する。
「だからだなぁ。焦っちゃ駄目なわけよ。ゲラじゃねえが、何らかの形で敗北する可能性があるのなら犠牲は少ない方がいい。これが真理ってやつだな」
「でもよぉ。そんなこと言ってちゃ、前へ進めないじゃんかよぉ!」
 珍しく正当な反論をするホーク。確かにその通りで、様子見ばかりしていては前へは進めない。時には前へ進む勇気も必要なときもある。しかし、これに対してもウルフは反論する。
「落ち着いて考えろよ。例えばだなぁ……」
 ウルフの反論を要約する。フェーユと遭遇したときのパターン。それを想像して欲しい。
 まず一つ目、楽勝パターン。三人で攻めボコボコに。これなら一人でも勝てたよ。二つ目、フェーユ予想以上に強かったよパターン。三人で攻め、返り討ちに。すべてが終わりゲームセット。三つ目、フェーユがこなかったよパターン。これはある意味ラッキーで、本拠地をつぶすだけでも士気低下につながる大事な一手となる。四つ目、三人でギリギリパターン。一人なら終わってたよ。三人で攻めてよかったね。ここらへんが考えられる。
 そして、問題なのは返り討ちの二つ目パターン。こうなるとどうしょうもない。それ以外は正直問題はない。もし、ウルフ一人で攻めて、四つ目の三人でギリギリパターンだったと感じたとしても、ウルフは無駄死にではない。ディーナをウルフの代わりとして攻めればもっと楽に勝てるのだ。つまり、三人で攻める。その方がリスクが高い。一人で攻める方が実は効率的なのだ。もしかすると一つ目パターンもありえるかもしれないし。
「むむぅ……」
 ホークには多少難しい話だったようで、頭がパンクしそうになる。しかし、そこはゲラが理解している。問題はない。だからこそ、ゲラにはある疑問が生まれた。
「確かにウルフの言うことは分かる。しかしウルフ。そなたにはもっと直感的な理由があるのではないか? 一人で戦いたい。そういうもっと直感的な理由が」
 ゲラのこの言葉に、ウルフはドキッとする。
「あらぁ、バレてましたかぁ。さすがゲラ。ご名答」
 そして、ウルフはまた語りだす。
「その通り。そんなこんなでお前らを丸め込もうとしたが、結局は一対一で戦いてえんだよ。俺ってこう見えて、自分がそうじゃなきゃいけねえって思うこと以外の事が起こるのが嫌いなんでよぉ。許せねえんだ。単純に人間が強い。いけねえんだよそれじゃ。俺はそれが許せねえ。だからこそ興味が湧いてくる。そんな間違った事実が起こってるってことが俺の殺意を……興味を駆り立てる」
 ウルフの瞳をジッと見つめるゲラ。そして、ゲラは感じる。こいつは本気。止めようがないくらいに本気。ゲラもファイに見せたときのようなあの瞳に自ずとなる。そして、ウルフに語りかける。
「骨をうずめてもよいというくらいに本気だなウルフ。しかし、焦っちゃならん。それは調査にはならんぞ。死闘だ。生か死か。そういうことなのだぞ!?」
 ゲラはウルフに語りかける。ウルフと同じように本気で。濁りなく語りかける。
「いや、調査さ。俺が帰ってこなけりゃフェーユは強い。帰ってくればフェーユは弱い。それだけで対策立てられるだろ? 完璧じゃんよ」
 ウルフの言葉。ウルフの瞳は、ゲラの心を貫いた。もう、ウルフを止められない。ゲラの本能が働いた。もう、ゲラは何も言えない。ならばホーク。空気を読めないホークならばこの場でも……。
「ウル……」
 ホークは言おうとした。行くな。わざわざ一人で死にに行くな。お前が消えるのは耐えられないと……。しかし、ウルフはその言葉を遮る。そして吠える。
「おいおい! 行かせろよ。まるで俺が負けるみたいじゃねえか! チャンスだ。間違いなくフェーユを見極められるチャンスだ! それを調査する役が俺。滅茶苦茶かっこいいじゃねえか! そんな役に酔ってる俺に、生とか死とか! そんな言葉投げかけんなよ……。ファミリーならよ。ここは一言、行ってらっしゃい。日が沈むまでには帰ってきなさいよ。だろうが……」
 もう、だれもウルフを止められない。その意思は、ゲラには当然のこと、感情的なホークにも伝わった。だからこそ二体はウルフを見送った。『行ってらっしゃい。日が沈むまでには帰ってきなさいよ』心でウルフの言葉を復唱しながら、黙って見送った。
 ウルフは進む。『ハーアリア』へ向け、いろいろな思いを交差させながら進む。やはり思い出すはファミリーとの思い出。というかその思い出しかない。
 だが、ウルフは満足していた。あいつらとの思い出はなかなかいいもんだな。そう思いながら進んだ。分身の指示を受けていることにより、軍隊に見つかることなく進み続ける。そしてたどり着く。決戦の地『ハーアリア』
「ここがそうか。なんだ、あまりにも普通じゃねえか」
 悠々と『ハーアリア』へ進入し、進み続けるウルフ。当然、『ハーアリア』の人間たちはウルフを恐れ、その恐れから銃を取り発砲する。しかし、そんな素人の弾丸など、どれだけ撃たれても当たる気がしない。一つ一つ丁寧に弾丸をかわし、自慢の爪で銃を細切れにする。
「おいおい、ちょっと黙ってろよ。ちょっと待ってりゃ来てくれるよ、人間界の勇者様がよぉ。ひょっこり助けに来て、俺をやっつけるんだ。そんでハッピーエンド……。ふざけんな。人間がそんなハッピーエンドを実現できるはずがねえんだよ」
 そんなことを愚痴っていたとき、思いもよらぬ寒気に襲われた。
「きやがったか……想像以上。いや、そんなもんじゃねえな」
 足早に歩いてくるその人影。別になんら変わりのない人間の影。しかし、ウルフにはその影が世界を包み込む影のように感じた。それほどまでの寒気。
「この場所は襲っちゃいけないな化け物。お前のせいで俺に助けを願う尊い命が失われてしまった。でも、仕方なかったんだ。俺は何よりも『ハーアリア』の人たちが大事だ。仕方なかった。だからそれはお前で晴らすぞ化け物。この代償。死で払え」
「うっせえ。かっこつけてんじゃねえぞ。遅れてきたくせによぉ」
 フェーユ現れる。『ハーアリア』の地に現れる……。




                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  




                  

20、なぜ生まれた? 

 そろう役者二つ。どちらもにらみ合い動かない。だが、このままではいけないと口論に持ち込もうと動くウルフ。
「てか、どうやってここに魔族が襲いこんできたって分かったんだよ? 超能力か?」
 このウルフの質問に対し、フェーユは冷笑する。
「故郷愛だよ。故郷愛」
 そして、動くのはフェーユ。故郷愛を動力として、恐ろしいまでの瞬発力でウルフの頬をかすらせるように斬る。それに対し、反応すらできなかったウルフ。流れる血を見るまでは、自分が斬られたのも分からなかったほど。
「ほぅ。言葉もしゃべれれば血も赤いんだな」
「けっ、狼の血は赤くないとでも言うのかよ。赤い血は人間の専売特許じゃねえ」
 ポタポタ流れ落ちる血。ウルフはこの男と口論に持ち込もうとしたことを後悔した。しかし、こいつともう少し口論をしたい。そう思った。
「三回回ってワン! ってか。強すぎて馬鹿になっちまうぜまったく!」
 だが、口論ばかりするわけにはいかない。隙を見て攻め込むウルフ。しかし、それをフェーユは器用にかわす。
「強い? 愚問だな。言っとくが俺はお前が思ってる以上、いや、桁違いに強いぞ。勇者だからな。しかも、故郷を狙うというならさらにだ。勇者+故郷愛。無敵だ」
 フェーユは正直、この時点で力量の差を見切っていた。だから、ジワジワ殺すことにした。魔族に恐怖を。恐怖を味あわせてからの死を。
 そして、対するウルフ。さらにイライラは増していく。いや、イライラカウンターは一周周り、それはもう面白いとさえ思えてきた。
「ヒャハハ。いけねえなあ。人間ってのは、体が弱い分、脳が発達して賢い生物へと進化したはずだ。なのに体も強いわ脳も強い。話が違うじゃねえか。きっと、神だったか? そう嘆いてるころだろうぜ」
 大声で笑いながらそう言うウルフ。もう、楽しむしかない。恐怖をりょうがする楽しみ。それをこの死闘で味わうしかない。ウルフの本能が叫ぶ。
『お前の思い通りにはならない』
 フェーユもこれは面白くない展開のようで、不機嫌そうな表情を浮かべる。
「神ね……。残念だが、俺は神様なんて信じないから嘆こうが笑おうがどっちでもいいや。まっ、一つ言えるのは人間はお前が考えてるより強いぜってことだ」
 はるかなる高み。そこからフェーユは語る。ウルフもそれは感じている。だが、だからといって逃げ帰るわけにはいかない。逃げ帰ってフェーユは強すぎました。皆さん諦めましょう。言えるはずがない。フェーユもギリギリだったんだけどよぉ。逃がしてやったぜ。言えるはずがない。というか、帰れるはずがない。これだけ桁違いの人間を目の前にして帰れるはずがない。興味心が訴えかける。
『こいつの底を見てみたい』
「なぁ、もし俺がこの町の人間を盾にして脅したらどうする?」
「する前に殺すよ。俺は別に今すぐにでも殺せるんだ。でも、言葉をしゃべり、自分で考え行動する化け物なんて珍しいから、もう少し付き合っていいかなとか思ってるだけだからな」
「まっ、そうだわな」
 ウルフは考える。体が弱い分、人間は脳が発達して賢い生物となった。しかし、人間はそれだけじゃ飽き足らず、その賢い脳を駆使して、体も強い脳も強い、完璧な生物へと進化した。だが、それが欠点だとウルフは考える。だが、その考えをたどると一つの大きな疑問にたどり着く。


               ――なぜ俺たちは生まれたのか――


「まぁ、んなことはしねえからちょっと世間話に付き合えよ。俺たちよぉ、人間を憎んで生まれた生命体でよぉ……。人間を殺すために生まれたようなもんなんだよ。でもよぉ、気づいちまった。俺たち必要ないんだ。別にな」
「……」
 不思議そうな顔でウルフの言葉を聞くフェーユ。どうやら、フェーユも突然の話に驚いたらしい。というか、ウルフの話に対する答えが浮かばない。フェーユは動かない。フェーユも興味を持った。本能が叫ぶ。
『こいつの真理を聞いてみたい』
「そんな顔すんなよ。何が言いたいってか? いやぁ、うれしくてよぉ。力と賢さのバランスって大事なんだぜ。俺は預言者なんてたいそうなもんじゃぁないが、預言……いや、宣言してやる。近い将来、人間は自分たちの強さ故に滅亡する。俺たちが手を出すまでもないじゃんって話。でもよぉ、それじゃ俺は納得いかねえんだよ。なんで俺たちは生まれてきたんだよ? 何のために? 人間を滅ぼすのではないのなら……何のために?」
 人間の憎悪によって生まれたとされる魔族。それは当然、人間を滅ぼすために生まれてきたはず。だが、人間は強い。目の前にいるフェーユは桁違いに強い。これでは人間を滅ぼせない。なぜだ。人間を滅ぼすために生まれたのなら、人間には負けないはず。だが、明らかに負けている。となると、何のためにこの世界に生を受けた……。ウルフの興味は、フェーユの底を超え、自分たち魔族の存在意義というところまできていた。
「それを俺に聞いたところでって話だろそれ?」
 フェーユが思考を投げた。フェーユの本能は、ウルフの思想を解くことを投げた。もう、フェーユがこの質問に答えることはない。フェーユの本能理解度を超えてしまったこの質問にはもう答えられない。
「まっ、そりゃそうだわな。これでお前が俺の納得するような答えをスパッと答えるようなら、俺は一生お前を崇め続けるよ。まっ、そりゃ無理な話だわな。そりゃそうだ」
 ウルフもこのことに対し、考えるのをやめた。恐らく、今の現状で結果がでることはない。時をかけて導かれし答え。ウルフはそう理解した。こうなるともう、この場に生きることはない。
「なぁ、無敵の勇者さんよ」
「なんだ?」
「もうそろそろおしゃべりも飽きただろ?」
「まあな」
「とりあえず現在の結論。人間は魔族が何をどうしなくても滅亡する。これは明らかなわけよ。だからまぁ、魔族の存在意義が確立しない限り、俺の生きる意味はない。となると、さっさと終わらせたいわけ。だからまぁ、今からは魔族・人間関係なしで殺し合おうや。フェーユVSウルフとしてよ。どうやら俺は馬鹿になっちまった。考えすぎて頭がスッキリしちまったみたいだ」
「ああ。マジで馬鹿だ。でも、化け物としちゃナイス判断だと言っておこう。そういうわけで敬意を表し、一撃で斬り殺してやる」
 剣を構えるフェーユ。爪を構えるウルフ。
「俺が興味を抱いた面白い化け物ウルフ。俺の人生にその名を刻もう」
 ボソッとそう言うと、ウルフ目掛けてフェーユが進む。
 勝負は一瞬で決着した。宙に舞うウルフの首。ウルフの自慢の爪がさくれつする前に飛んだウルフの首。フェーユの剣が圧倒的に勝ったこの戦い。しかし、心……精神面の戦いではウルフが圧倒的。これも間違いない話。
「人間を憎み生まれた生物。確かに無限に現れるのも合致する。人間は生物のピラミッドの頂上。憎まれ役は当たり前の話。しかし、生まれた理由までは人間を滅亡させる。そうじゃない……? あーー! 分かんね! まぁ、いいか。そんなこと考えててもしょうがない。とにかく俺は化け物を滅ぼし、人間を守る。それだけだ」
 自分で自分に言い聞かせるフェーユ。そして、町を守ったフェーユは、また人間を助けるために進み続ける。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  



                  

21、決意 

 ウルフの死亡。それは、同じ怨念から生まれた生物魔族の仲間にも伝わる。
 この事実には、ディーナも魔族を生み出す詠唱を止める。魔族のこれからのことを考えようと、久しぶりにホーク、ゲラの下に顔を出した。
 『デービグロー』に流れる重たい空気。だが、その重たい空気の中、一人大声を張り上げる魔族が一体……。
「やられた。ファミリーがやられた。フェーユに……フェーユにやられた!」
 やはりホークだ。仲間の死に怒り狂うホーク。やはり、反対を押し切って三人で攻めればよかった。フェーユに対し、自分に対し、怒り狂う。
「行くぞ。俺は行くぞ……。もう、俺をだれも止められねえぜ!」
 ホークは決意した。フェーユを抹殺し、ウルフの敵を討つと。だが、そんな自分勝手な判断に、ディーナとゲラが賛同するはずはない。
「落ち着きなさいホーク。あなたのしようとしている行動は、ウルフの意に反する行為となるのですよ?」
「その通りだホーク。ウルフも言っていただろう。自分が帰ってくれば相手は弱い。帰ってこなければ相手は強い。つまり、相手は強いのだ。今、お前が動いたところで死ぬだけだぞ」
 ディーナとゲラは、冷静にホークを論する。だが、ホークは納得しようとはしない。
「相手が強いとか、俺じゃ敵わないとか、意に反するとか動いたら死ぬとか!! 俺はそんな理屈っぽいのはわけわかんねえんだよ! 今、俺でも理解できる事実はただ一つ。大切なファミリーが殺された。これだけで十分に動く理由になるんだよ。少なくとも俺はな」
 ホークは動いた。もう、誰の言葉も待たない。
「俺はもう行く。ウルフの敵討ちに……行く!」
「ホーク!!」
 ディーナとゲラが同時に声を上げる。
 だが、ホークは止まらない。
「ごめん。勝手なことなのは分かってる。でも、抑えられねえんだ。この気持ちを抑えられねえ。絶対に俺が終わらせるよ。勇者だろうが強かろうが、そんなの知るかよ。もう、大切なファミリーをだれも失いたくないから……俺は行く」
 こうなってしまったホークは、ディーナとゲラも止めることが出来ない。ここで力ずくで止めても、また同じ議論が繰り返されるだけだろう。ディーナとゲラは生きて帰るホークの姿を待つしかない。そう思うほど、ホークには覚悟のオーラが充満していた。声はかけることは出来ても、ホークの覚悟を否定することは出来ない。ディーナとゲラは、ホークが敵討ちに向かうのを、生きて帰るのを、見送るしかなかった……。


                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  




                    ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

22、憤怒 

 人間に殺されながらも、その数の多さで着々と前へ進む魔族たち。そして、魔族の群れはついに『メガンナ』への進入を目前とした。
 だが、ここは一筋縄では侵略できない。ここには、意志をもったアンドロイドたちが住む。アンドロイドたちは『メガンナ』が大好きだ。魔族なんかに侵略されるわけにはいかない。アンドロイドたちも魔族を迎え撃つため、『メガンナ』の外へ出る。
「見えてきましたね。絶対……守りきりましょうね!」
 『メガンナ』の外。大量の草が生い茂る草原の向こう側から進み来る魔族を見て、アンドロイドの一体が激を入れる。
「当たり前よ! だよねメジア!?」
 あたかも、自分が守ってやろうじゃないかというくらいの勢いでメジアに尋ねるシャーナ。そのシャーナの振りに、メジアは淡々と答える。
「ああ、シャーナの言うとおり、当たり前だ。傷ひとつつけさせない。『メガンナ』がひとつ傷つくのは私たちすべてがひとつ傷つくのと同じことだからな」
 そうしている内に、魔族がアンドロイドたちの視界に飛び込む。戦闘態勢に入るアンドロイドたち。当然のことながら、シャーナは草葉の陰から見守る。
 魔族を迎え撃つアンドロイドたち。一体一体のアンドロイドたちの戦闘力はなかなかのもので、魔族一匹たりとも侵入を許すとは思えない戦いっぷりである。
 だが、予想外の展開は突然起こる。自慢の羽で大空を滑空しながらフェーユを探すホークがその現場を見てしまったのだ。当然、今のホークは怒り狂っている状態。同じファミリーである魔族たちがやられている姿を見て、ホークの本能がホークに告げる。
『ファミリーを守れ。そして、ファミリーを殺す敵を抹殺せよ』
 本能がホークに告げる。そして、本能がホークを刺激する。そうなれば答えはひとつ。ホークは動く。
「何してやがる。何してやがんだこらぁ!?」
 大声を上げながら、急降下するホーク。
 それに気づくメジア。その怒りに満ちた雰囲気で、魔族の中でも強敵の部類と判断したメジアは、仲間に告げる。
「この場……任せてもいいか? どうやら大物が現れた」
「ええ、任せてください。大丈夫ですよこれくらい。大物退治……任せました!」
 その言葉に安心を覚えるメジア。しかし、安心してる場合ではない。メジアは眼力でホークへ訴えかける。
『お前の相手は私がしてやる。こっちへこい』
 その眼力は、じかにホークへと伝わる。
「お前がボスか。OK。バラバラにしてやらぁ」
 誘いに乗るホーク。メジアの誘導により、アンドロイドたちと魔族たちが争う場所から、かなり遠く離れた場所で対峙する。
 そして、普通に声の届く範囲まで近づいたホークとメジア。お互い、もの凄い形相でにらみ合い、引こうとはしない。そして、先に言葉を発したのはホーク。いつもよりも落ち着いているようで荒々しい口調で言葉をぶつける。
「てめえ。人間じゃねえな?」
「ああ。生物という点では同じだが」
「人間じゃねえのか……。めんどくせえなぁ。てめえも敵とみなしてOKなんだな?」
「私はお前がそう思う前から敵とみなしているわけだが?」
「へっ、言うねえ。じゃあ、遠慮なくお前の先に見える町を破壊させてもらうぜ?」
 ホークが何の迷いなく放ったこの言葉に、メジアは顔つきを変える。それは、怒りでもなんでもない。心に生き続ける意志。意志が顔つきを変え、言葉を発する。これだけは何があってもさせない。メジアの意志。
「それはさせない。この町は誰にも壊させない。この町はいつまでも私の奥底で生き続ける原動力、みんなとの思い出が詰まった原動力。その原動力を壊すというのなら……私のすべてを賭けて阻止させてもらう」
「へっ! やってみろや!!」
 戦闘態勢に入る両者。だが、次の瞬間。今のこの殺伐とした雰囲気がさらに大きくなることとなる。殺伐とした雰囲気がさらに殺伐とする……ホークの怒りが増大することといえば……。
 遠くから聞こえる魔族の断末魔。それはそれは恐ろしいスピードで聞こえてくる。これは明らかにアンドロイドたちの仕業ではない。魔族を殺しながら悠々と歩いてくる人影が一つ。人間から見たその姿は正に勇者。魔族から見たその姿は正に悪魔。これはもう確定的。ホークの眼の色が変わる。こいつは正に、自分が探していた……大切なファミリーを奪った……
「まさか自分から来てくれやがったか。おいおい、ラッキーすぎんだろ。ムカつく野郎どもをまとめて殺せるってか? おい横のてめえ。ちょっと戦いはお預け。先客はあいつなんだよ、予約済みだ」
 ホークの言葉にメジアは口を開かない。メジアはもうホークに眼中はない。もう、遠くから悠々と歩く人影の分析に取り掛かっている。
 そして、ホークとメジアの前へ姿を見せるその人影。
「てめえ、フェーユだな?」
 殺意のこもった声でそう問うホーク。その問いにニコッとうなずくフェーユ。
「その通り。気配を感じて遅れて登場フェーユさんだ。紹介はされてしまったが、ひとつ言い忘れている事があるぞ。俺は勇者だ」
 明らかになめているその答え。殺意のある者からの問いかけへの答えとは思えないその答えに、ホークのイライラゲージはMAXに到達する。
「なめてるな!? てめえは俺をなめてるな!?」
 怒りに震えるホーク。だが、フェーユはこれにもニコッと返事をする。
「あぁ。なめてなかったらなんなんだって話だ。もう、しゃべる化け物は見飽きたんだよ。分かるか?」
 ホークの中で何かが切れる音がする。もう、ホークの視界にはフェーユしか見えない。フェーユを殺さないと……自分が自分でいられない気がした。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  




                    ブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村

23、蚊帳の外 

 怒りで我を忘れそう……いや、忘れるホーク。ホークはウルフのように利口な脳の持ち主ではない。イライラが一周するようなそんな器用な脳はもっていない。もう、怒りでフェーユしか見えない。メジアなどフェードアウト。標的はフェーユに絞っていた。
 ホークは、その理性を失いかけの脳で、最後の悪態をつこうと考える。それが終われば、もう知らない。抑えられる自信がない。
「さっきからてめえ、勇者を強調してるけどよぉ。勇者ってそんな偉えもんじゃねえんじゃねえのか? 勇者って響きはいいけど、結局は人間にいいように使われてる使い走りじゃねえか」
 ホーク渾身の悪態。これなら、少しは精神的ダメージがあるんじゃないかと、ホークが考えた渾身の悪態だ。だが、フェーユはこの悪態に大笑いする。アッハッハと腹を抱えながら大笑いする。
「いやぁ。ウルフは何かを考えさせられる発言が多かったけど、君は面白い発言が多いなあ。しゃべる化け物は興味深い者ぞろいだ。おっと、話がそれてしまったね。君の質問に一言で答えよう。確かに君の言うことは間違っちゃいない。だが、勘違いしてるようだ。確かに俺は使い走りさ。でも、ただの使い走りじゃない」
 大笑いしながらそう語るフェーユ。大笑いしながらとはいえ、この一言で、ホークの悪態はすべてつぶされる。
 さらに、追い打ちをかけるようにフェーユはまた言葉を発する。しかも、今回は真面目な顔というおまけつきだ。
「さぁ、ここからがその一言だ。よく覚えておきなよしゃべる化け物君。使い走りでも極めれば勇者になれる。これが真意だよ」
 真面目な顔でそう言い切る。使い走りであることに誇りをもっているフェーユからすると、逆にホークの言葉は褒め言葉。逆効果なのだ。
 もう、こうなっては何を言っても無駄。本能がホークにそう告げる。そう本能から告げられた瞬間。ホークは無意識に羽を広げていた。
 羽に風をため、殺意を込める。標的はフェーユ。
「砕け散れナルシスト野郎!!」
 ホークが渾身の思いを込めて、フェーユに突風をくらわす。この風はただの風ではない。人ひとりくらいなら楽々に切りきざめるほどの風。フェーユもモロに食らってはひとたまりもないだろう。
 だが、フェーユは余裕気に剣を抜く。
「なんて読みやすい風だ。真っすぐで濁りのない、一心に俺を狙う風。少し興奮するな。どう思う横のアンドロイド? 合ってるよな。アンドロイドさん。俺を観察するばかりじゃなく何かしゃべりなよ」
 器用にホークの風を剣で受け流しながらメジアに語りかけるフェーユ。そう、メジアはさっきまでホークの横にいたのだが、ホークよりも未知数のフェーユに興味を抱き、フェーユの隣に移動していたのだ。
「……私を狙っている風ではない。私に聞くことではないだろう」
 なんとも無愛想にフェーユの質問に答えるメジア。メジアはまだフェーユを警戒しているようだ。
「あらら。あまり良く思われてないみたいだな俺。それとも、アンドロイドだから決まった質問以外は返せないとか?」
「自分のペースにもっていくことに長けているようだな。うまいように痛いところをつく」
 冷静にフェーユの言葉を解析するメジア。これにはフェーユも苦笑い。
「へぇ……俺の舌戦も、感情のないアンドロイドには無意味ってやつか」
 少し落ち込むフェーユ。
「ふっ。私たちアンドロイドという生物に感情がないと思っているお前はまだまだだな。それが本意かはしらないが」
 いつの間にか二人の舌戦へと変更しているこの戦い。だが、このままホークが黙っているわけがない。ホークは無視されているのだ。どれだけ風を放っても、フェーユは受け流し続ける。試しにメジアにも放ってみたが、そもそもメジアにはホークの風は通用しないようだ。さらに、風を受けながら悠々と両者はしゃべっている。これほどの屈辱、今まで受けたことはない。
「てめえら!! 俺を無視してしゃべってんじゃねえよ!!」
 ホークは心の底から叫ぶ。まずはこちらに関心をもってもらわなければ話にならない。のけ者なんて耐えられない。だが、フェーユとメジアは、ともにため息をつく。そして、怒りの眼に変わる。
 同時に動くフェーユとメジア。フェーユは剣を、メジアは拳を繰り出し、ホークの目の前ですん止めする。その二つの生物から放たれる叫びは、言葉ではなく意志としてホークに放たれる。そして、その意志は同調し、ホークへ向けて復唱するように訴えかける。
『邪魔をするな。もう、お前に興味はない。今すぐに帰れ。でないと殺す』
 フェーユ。メジア。ともに興味を抱いた。メジアは考えた。いくら分析しても底が見えないこの男。必ず底を暴く。フェーユは考えた。アンドロイドなのに人間と同じように心があるように感じる。なぜだ?
 そして二人は同調する。今、この場に邪魔なもの。それはホーク。もう、底も見えているし、言うことは子ども。うっとうしいだけ。なら、黙らせよう。
 そして、二人は動いた。その動きはホークに多大なるダメージを与える。ホークの本能が感じてしまったのだ。レベルの差……力量の差を。
 さっきまでの勢いとは裏腹に、ホークの本能がホークにとって厳しい伝達をする。
『今すぐに逃げろ。帰るのだ。次元が違う』
 だが、これにはホークの心の部分が反論する。
『嫌だ。ファミリーの敵を討つまでは帰れない』
『帰れ』
『嫌だ』
『帰れ……!』
『嫌だ……』
 本能と心のぶつかり合い。これにはホーク自身が耐えることが出来ない。体が暴走する。
「う……うぁああああ!!」
 ホークは一心不乱に飛び去る。体の暴走。錯乱。混乱。もう、何を考えているかも分からない。とにかく飛ぶ。ホークの意志の奥底にインプットされている誇れるもの。それは自慢の羽。もう、その羽を使って飛ぶことしか考えられないのだ。
 こうして、ホークはこの場から消えた。この場に残るはフェーユとメジア。
「なぁ。あの化け物、立ち直れると思うか?」
 フェーユがおもむろに質問する。
「恐らく駄目だろう。おびえていたからな」
「なら、殺したも同然か。てことは、後はお前だな。生きるアンドロイド君」
「アンドロイドはみんな生きていると言っているだろう?」
 興味があるもの同士、しゃべる両者。だが、決して味方観点からではない。あくまで敵対としてしゃべる。
「そうか。みんな生きているのか。なら、みんなは人間をどう考える? 味方か? 敵か?」
 この質問に、初めてメジアは考える姿勢を見せる。メジアは考えた事がなかった。われわれアンドロイドを作ったのは人間。なら、味方なのか? いや、人間にはいろいろなパターンがある。存外な生物。一言に味方だとも敵だともいえない。ならば線を引こう。人間を味方か敵かよりも……
「人間が私たちの幸せをつぶそうとするなら敵だ。そうじゃないのなら味方だ」
 そのメジアの答えに、フェーユはフッと笑う。この笑いはニコッとする笑いではなく、どちらかというと残念な笑いだ。
「なら、俺たちは敵なのだろうな。人間は欲深い生物。必ず、お前たちの幸せをつぶそうとするさ」
 また、メジアは考える。そして、本当に感情の宿った生物のような悲しげな表情でフェーユに語りかける。
「もしもそうなったとき、お前も私たちの幸せをつぶしに来るか?」
「あぁ、そうするさ。なんせ俺は人間の使い走りなんでね」
 こんな質問にも即答で答えるフェーユ。
「いさぎいいスピードと答えだ。なら、今ここでつぶしに来るか?」
「いや、それは分が悪い。見ろよ。みんな俺をにらんでる。お前の幸せに囲まれてちゃ俺もお手上げだっての」
 両手を上げ、全力で否定するフェーユ。
「みんな……?」
 辺りを見渡すメジア。そこには、魔族との戦いを終え、フェーユを。メジアを。ジッと見つめるアンドロイドたちの眼。シャーナの眼。みんな、メジアを応援する眼。フェーユをにらみつける眼。ここはもうメジアのホームグラウンド。メジアの幸せ。
「さて、そろそろ俺は去ろうかな。俺は勇者だ。人間に慕われて生きていく生物。悪役は向かないんでね」
「そうか……。では、一つ宣言しておこう。次に出会い、お前を敵だと判断したその時……その時は容赦しない」
 厳しい言葉を放つメジア。しかし、何かしら寂しそうである。そんなメジアの気持ちにも気づいているフェーユ。しんみりとした表情で答えを返す。
「ああ、分かってる。まっ、その前にだ。お前の仲間たちにもお前にも謝っとくよ。アンドロイドは感情がないってのは俺の思い違いだったようだ。感受性ビンビンじゃねえか」
「本当に……そう思っていたのか……」
 どこまでが本当か分からないフェーユの言葉に、疲れを覚えるメジア。
 そして、去るフェーユ。フェーユは人間や魔族以外にも、こんな面白い生物がいるのかと喜びに浸る。メジアも、人間にはなかなか面白い者もいるものだと興味を持つ。もし、敵だとしても、笑顔で今日の事をシャーナや他のアンドロイドたちに教えよう。そう思った。
 そして、混乱し、飛び回るホーク。ホークはまだ混乱している。今、最も存在危機に陥っている生物。それは、魔族なのかもしれない。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  



                     人気ブログランキングへ

24、地球の化身 

 勢いよく、しかしフラフラと大空を滑空するホーク。ホークはまだ気持ちの整理ができていなかった。自分よりも圧倒的に強い存在。逃げ出した自分に対する怒り。そして何よりも、おびえる本能……。これだけはどうしようもない。
 もう、立ち直れないのではないか。そんな精神状況にあるその時。ホークに、ある奇怪な光景が眼に飛び込む。もしかすると、幻覚が見えるくらいに自分はおかしくなっているのではないか。心の何処かでそういう気持ちになるホーク。それもそのはず。
「なんだ……どういう冗談だよ、こりゃよぉ……」
 ホークの真横には、自分と同じように並行して滑空する人間が一人。いや、人間といえるのだろうか。体のベースは確かに人間だが、背中に生える大きな羽。鋭く伸びる牙。ニョロニョロと姿をのぞかす舌。さらには、手足がロボットのような鉄金属で覆われている。なんとも奇怪な生物。そんな生物がホークには見える。
 そして、その奇怪な生物は何事もないかのように口を開き、しゃべりだす。
「やぁ。驚いているようだねホーク君」
 ホークをあざ笑うような口調でそう言う奇怪な生物。ホークはそれにイライラする気力もなかった。
「反応なしか。仕方ない、話を続けよう。僕は地球の化身。まぁ、この世界ではアースとでも名乗ろうか。その僕が来たんだからそりゃ驚くよね」
 ホークには、この地球の化身と名乗るアースが一体何なのか分からない。地球の化身とは何? なぜ自分の名前を知っている? 意味分からないことだらけ。混乱してる今の状況ではなおさらだ。
「いきなりなんだ? 馬鹿か? それとも阿呆か?」
 ホークの決断。まずは悪態をつけ。そうでもしないと頭が爆発しそうなのだ。
「うんうん。確かに、ホーク君の言いたいことは分かるよ。普通はそうなる。でも、君がどう思っていようと、僕は地球の化身なんだ」
 アースはそう言うと、いきなり人差し指をホークの目の前につきだし、質問を始める。
「質問です! ホーク君。今あなたは混乱して逃げています。そして、悔しがっています。さぁ、なぜでしょう?」
「いっぱいありすぎて困んだよ……目障りだぜ。消えろ!」
 ホークが精一杯の大声でアースに言う。しかし、アースは聞こうとはせず、あたかも、自分の目の前には誰もいないというような態度で話を続ける。
「そうだね。君はファミリーの敵を討とうとしたが、相手が強すぎるために断念。そして、混乱することでうまく逃げることに成功。しかし、心にはファミリーの敵を討てなかった自分の後悔の念が残り、現在も混乱中」
「何言ってんだてめぇ!!」
 アースは、あたかもホークから答えを聞きだしたような態度で言葉を発する。これに納得のいかない。というか、また怒りが湧き始めてきたホーク。問答無用に羽を広げ、突風を繰り出す。しかし、アースには全く突風が効かない様子。
「ふう。自然界の風を荒く扱っちゃ駄目よん」
 ホークはまた絶望する。自分の弱さに、未熟さに、小ささに……。
 このホークの姿に、アースは一安心といった表情。
「そうそう。少しおとなしくしててねん」
 アースはひとつホークにウインクをすると、ガラッと雰囲気を変える。トロッとした目つきから、とがった鋭い目つきに、そして、声色もなにやら恐ろしく……。
「君は……いや、君たち生物は少し活発すぎるんだよ。もう少しおとなしくしてくれないと僕は困っちゃうんだ。しょせん、自然の摂理に歯向かえない微生物のくせに、立派な巨人になった気でいる。そして、巨人たちは言うんだ。私たちの仲間を汚すものは許せない。でも、巨人たちは勘違いをしている。巨人は大きい。自分の見える範囲は少ないんだ。そんな巨人たちが微生物以下の生物を気にするはずがない。見えるものしか守れないくせに、見えないものまで守った気でいる。それにすら気づけないんだよね君たち生物は」
 長々と言葉を発したアース。これからアースは自分を殺すのだろうか。ホークはそうとさえも思った。それほどまでに、アースがしゃべっているときの雰囲気は恐ろしかったのだ。
 しかし、その予想は大きく外れることとなる。言葉を発したアースは、またコロッと、ふざけた調子のアースに戻ったのだ。
「まっ、その点ではアンドロイド君は優秀だね。見捨て方を知ってるから。でも、面白味がないんだよね彼ら。その点では、君たち魔族とか人間の方が面白いね」
 もう、ホークはアースの話を深く聞くのは止めた。意味の分からぬ存在など意味の分からぬまま終わった方が幸せなのだ。そう思ったホークは、一時的に思考を停止することとした。
 これに対し、アースはとても残念そうにため息をつく。
「まっ、そうだね。疲れてる君にはこれくらいがちょうどいいか。じゃあ、まったねー」
 アースはその場から姿を消した。文字通り、姿を消したのだ。
「なんなんだよ……まったくよぉ……」
 ホークの頭はさらに混乱する。もう、なんだか混乱しすぎた。ホークは逆に冷静になってしまった。もう、何かを諦めてしまったかのように。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  

25、それぞれのその後 

 メジアと別れ、また一人で魔族を斬り殺し、人間を守り、進む生活へ戻ったフェーユ。また、いつもと同じ生活。だが、フェーユの心の中には、今までにない不気味な感覚があった。
「俺は勇者……恐ろしいほどに強い勇者。今まで記憶にある上級化け物のホークにもゲラにもウルフにも負けるつもりはない。いや、ウルトラ%負けない。だが、なんだこの感覚は」
 魔族に対し、あれだけ余裕そうに振る舞っていたフェーユ。しかし、心の奥底では、ホーク、ウルフと対峙したとき、ゾクッとする感覚にフェーユは襲われていた。しかし、ホークやウルフは、戦闘能力に関して自分の足元にもおよばない雑魚キャラ。フェーユはそう認識する。しかし、自分がやられるかもしれない。なぜかそんな感覚にフェーユは襲われているのだ。
 フェーユは冷静になって考える。なぜ、自分の足元にもおよばないホーク、ウルフと対峙したときに、そんなゾクッとする感覚に襲われたのか。心を無にして、自分自身に問いかける。
 すると、あれだけ悩んでいたのが馬鹿らしいというように、一つの答えに線が伸びてゆく。そう。ホーク、ウルフ、ゲラ。この三人が魔族のボスだとは誰も言っていないのだ。
「大ボスがホーク、ウルフ、ゲラであるならば俺は……それよりも大きな存在がいなければこんな気持ちには……つまり、いるという事か」
 フェーユは、上級魔族と線を引く。ホーク、ゲラ、ウルフの上に、大ボス魔族である、何者かの存在をイメージした。そして、その存在に勝つためにはまだまだ強くならなければ、魔族を倒し続けなければ……。
 天才が努力を覚えた瞬間。魔族にとって、とても驚異的な話である。

 そして場面は変わり、無事、魔族の襲撃から何も壊されることなく守る事が出来たアンドロイドたち。今日も自分たちの幸せである『メガンナ』を立派な町に作り上げるために頑張る。まだ、そこは荒々しい地だが、アンドロイドたちにとっては立派な町。人間に作らされていたこの地も、いまや自分たちの生まれ故郷とも言うべき存在。ニコニコと活発な空気で作業を進める。
「みんな、いい顔で頑張ってるね。メジアが来てからさらにいい顔になってる」
 もう、何年も育ててきた親のような口調で、しみじみとそう言うシャーナ。
「あぁ。みんな楽しんで作業を進めている。これがいい雰囲気というものなのだろう。だがシャーナ。私が来てからさらにというのは……少し言い過ぎなのではないか?」
 シャーナの言葉に、少し照れ気味に言葉を返すメジア。そんなメジアに、シャーナはウフフと笑う。
「メジア可愛い! メジア、感情豊かになったよね。私、すごいうれしいよ」
 自分の事のように喜ぶシャーナ。そんなシャーナの反応に、照れ隠しをするかのように、スタッと立ち上がるメジア。
「そんなに私をからかうな。そろそろ私も作業に戻る」
 作業をしている仲間たちの下へ歩き始めるメジア。
「うん。頑張ってね! 私も歌で応援するよ!」
 そう言うと、美しい歌声で歌を歌い始めるシャーナ。歩きながらシャーナの歌声を聴き、作業に向かうメジア。正直、これほどの幸せはない。メジアはそう考える。
(いつ聴いても心地が良い。私はこの歌をずっと心で復唱しながら生きよう)
 メジアはそう心に決め、今日も作業を始める。
 メジアは今のこの生活が幸せで幸せで仕方がない。だから思えるのだ。この幸せの場所を……自分のすべてを賭けても守っていきたいと。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  

26、The Earth 

 ダイナ族が世界に生まれ、ヒドラーの命令によりダイナ族が滅亡し、魔族が生まれてから、大きく時は流れた。
 魔族が現れたその時から実に五年。この五年、大きな争いはいくつもあった。だが、世界にあまり変わりはない。
 少しずつ着実に世界を侵略する魔族。だが、これは本当に最小限の侵略だ。人間を守り続ける勇者フェーユ。ヒドラー率いる軍隊。この二つの力が、魔族の侵略を押さえ込む。
 世界はずっとその調子。結局、それだけのことなのだ。どれだけ大きな戦いが起きようと、世界全体を考えると、たったそれだけのこと。だが、それは今だけ。事は突然起こるのだ。どれだけ長い争いを続けようとも、たった一瞬の出来事で、その長い争いを凌駕するほど、世界は動く。
 その出来事は、深い深い未来の底で、着々と爆発する時を待っている。待ち続けているのだ。そして、その出来事が爆発したとき、微笑むのはたったひとつの存在。
 その大きな世界すらを包み込む存在、地球地球は待ち続ける。その出来事が爆発するのを着々と待ち続ける。そして、その出来事が爆発したとき、地球はそっと生物に伝えるのだ。
生物たちよ。世界を変えるときが……時はきてしまった』
 その時、地球は静かに……いや、大きく動き出すのだ。その出来事が起こるとき……それが、世界が大きく進むとき。生物達に地球の審判が下るとき……。



                   もしよろしければ投票お願いします


                  こちらも投票お願いします


                  ネット小説ランキングに投票お願いします。


                  

27、策 

 アースと出会い、何かを諦めたかのように冷静になったホーク。それは、無事に『デービグロー』に帰った後も同じ。何をする気も起こらない。言葉を発することすら面倒くさい。その姿は正に廃。末期の状態だ。
 そんなホークの姿に、長い間悩んでいるディーナとゲラ。こればっかりは、ディーナとゲラがどれだけ言葉をかけても無駄。頭を悩ませるのも無理はない。ここは、ホークに語りかけて何とかするという作戦は捨てたほうがいい。ゲラとディーナはそう考えた。
「さて、どうするディーナ殿。このままではホークがつぶれてしまう……それは避けたい事実なのだが」
 いつも冷静に物事を判断するゲラでも、今回のホークの意気消沈ぶりには頭が働かないようだ。これにはディーナも頭を悩ませる。だが、このままじゃいけないことは事実。ゲラもディーナも、このままホークを見放すことなど頭にない。それは同じ。どうにかして、どうにかしてホークを……。
 二人して悩みぬいた結果、ディーナにある策が頭をよぎる。だが、ディーナの考えるその策は、下手をすれば、さらにホークを潰すことになる。だが、うまくいけば、ホークが元に戻るきっかけを作れる。そこから自分たちが頑張れば、また……。
「その策とはいかなる策なのだ?」
 興味津々にゲラが尋ねる。
「簡単な話です。ホークが最も嫌う存在、『人間』を一人仲間に引き込みます。ホークは魔族の中でも人間を毛嫌いしていますから、当然嫌がるでしょう」
 このディーナの発言には首をかしげるゲラ。話の締めが見えてこない。
「人間を引き込んだところで、ホークが殺しておしまいだろう?」
「いえ。そうならないように、魔族に最も近い人間を引き込みます。世界は広いのです。そういう人間もいるのですよ。それに対し、またホークは反発するでしょう。むしろ、反発してもらわなければ困ります。私の考えではそこでホークにポッカリと穴が開くと思うのです。そこを私たちが狙えばきっと……」
「言いたいことはよく分からんが……。だが、任せたほうが良さそうだ。その眼は自信に満ちた眼だ」
「ええ。でも、もしかするとゲラ。あなたを利用しなければならないかもしれません。ホークを復活させるためならあなたは命を投げられますか?」
 ディーナは、そんな言葉も悲しみなく発する。その言葉に、ゲラはディーナの意志が固いことを読み取った。
「私たちはファミリーだからな。ファミリーのために命を投げられずに何がファミリーか。だが、私は命を投げても死ぬ気はないがな。それもまたファミリーだからだ」
 この日。ゲラとディーナ。大きな決断とともに動き出す。すべてはホークを救うため。それもまた、ファミリーだから。



             もしよろしければ投票お願いします


             こちらも投票お願いします


             ネット小説ランキングに投票お願いします。


             

28、武道を志す者として 

「格闘トーナメント開催。強き者よここに集え」
 町に貼られてある張り紙を棒読みで読むシャロン。
「こんな世の中だというのに能天気なものだな。さぁ、こんなものは無視して行きましょう王子」
 こんな時代に格闘トーナメントなど、何を考えているのだ。と、不機嫌な様子で語るファイ。しかし、シャロンは、そんなファイの言葉に賛同せず、その場で立ち止まり、眼をキラキラさせながら言葉を発する。
「ねぇ! 出てみない格闘トーナメント? 僕、今の自分の実力を肌で知りたいんだ!」
 そう。シャロンだって、いつまでもひ弱な王子ではない。ファイとともに旅をし、少しずつ外の世界に触れているシャロンは、旅に出たあのころよりも、見て分かるほどたくましくなっていた。まぁ、格闘トーナメントに出たいと言っているところなど、いろいろと子どもっぽさは抜けていないのであるが……。
「正気ですか王子?」
 大きなため息をついてそう言うファイ。そして、シャロンに格闘トーナメントなどに出なくていい意味を説明し始める。
「王子がこんなトーナメントに出たところで勝つのは目に見えています。ただの茶番にしかならないものに時間を使っていられませんよ」
 シャロンに、説教をするかのように説明するファイ。しかし、これにはシャロンも反論する。というより、意見をする。
「そう思うならファイも出場してよ。むしろ、僕の狙いはそれさ。ファイの強さを肌で感じたい」
 この言葉に、ファイはうれしいのか悲しいのか分からない。少し微妙な表情になる。
「王子。私はあなたの自信を砕くために旅しているのではないのですよ?」
 この言葉、ストレートに直訳すると、お前と私では力の差がありすぎて絶望してしまいますよ。私はそれが嫌なのです。こういうことになる。何だか、フェーユのような言い草だ。
 だが、ここで引くわけにはいかないシャロン。すぐに言葉を返す。
「分かってるよ。むしろ前へ進むためにファイと戦いたい。しかも、ただ戦うだけじゃ駄目。もし、この場で戦ってもファイは本気を出さない。うまい具合に負けてくれたりもするかも。でも、トーナメントなら、人が見るトーナメントならファイは負けない。格闘家が人前で無様な姿を見せるなんてもってのほかだもんね。だから僕は、この格闘トーナメントをひとつの運命だと思って戦いたい」
 シャロンは、ひとつのステップアップとしてファイと戦いたいと考えている。ファイを本気にさせてみたい。本気で戦ってみたい。自分がもっと強くなるための経験値にしたい。これがシャロンの言い分。
 だが、ファイは、シャロンのこの言葉にもうひとつのメッセージを見いだす。
『ファイに自分の力を認めて欲しい』
 格闘家として、弟子ではないが、ともに旅する仲間にこういうことを言われると予想以上に興奮するものだ。今の自分の力を見て欲しい。そして、自分の力を認めて欲しい。格闘家としてのラブコール。格闘家として、これは受け取らなければならない。
 こうなってはファイに断る理由はない。シャロンの意見を呑む。
「では、早速手続きをしに参りましょう。お互い、悔いの残らぬ戦いを」
「うん! 悔いの残らぬ戦いを!」
 格闘家として……武道を志す者として、握手を交わす両名。
 この瞬間。シャロンとファイは仲間ではない。格闘家としてのライバル同士。



             もしよろしければ投票お願いします


             こちらも投票お願いします


             ネット小説ランキングに投票お願いします。


             

29、力をすべて出し切って 

 この格闘トーナメント。確かにファイの言うとおり、茶番も茶番。だれも、シャロン、ファイ、両名にかすり傷すら負わせる事も出来ず敗退。トーナメントのくじ運が良かったのもあるが、何の苦労もなく決勝戦まで進む。当然、戦うのはシャロンとファイ。
 ここまで圧倒的な力で進んできたこともあり、会場のボルテージは最高潮だ。
「来ちゃった。来ちゃったよ……。なんだろう……最高」
 興奮を抑えきれないシャロン。それもそうだ。目の前に立つは、仲間としてのファイではない。格闘家としてのファイ。本来の姿である格闘家としてのファイなのだ。
 いよいよ、その実力を肌で拝むときがきた。
「いいですよ王子。あなたと出会ったころよりもずっと……私好みの顔だ。今更ですが、格闘家としてワクワクしてきました。多分、抑えきれません」
 その瞬間。ファイの奥底から闘気がにじみ出してきた。その闘気はジワジワと量を増し、会場を包み込む。だが、この闘気に気づける強者など会場にはいない……。いや、シャロンを除いては。
 シャロンは仲間として旅に出て、初めて格闘家としてのファイの闘気を感じ取った。今まではだれかに向けられていた闘気が自分に向けられている。これだけでシャロンは至福だった。恐怖をも凌駕するほどに。
「これがファイの……なんて鋭いんだ。寒気がするほどに鋭い。でも、そうでなくっちゃ。僕が強くなるにはこうでなくっちゃ。だから、今は今の僕の最大を見せる。物足りないと思うけど、僕の最大を混ぜてあげる」
 シャロンをにらみつけるファイ。それは、一点集中の証であり、とてもうれしいこと。だから、シャロンもファイをにらみつける。
 一点集中。ファイがシャロンに対し闘気を放つように、シャロンもファイに闘気を放つ。それはぐちゃぐちゃに混ざり合い、初めてそれが空気となる。ここで、初めて会場も空気の異変に気づくのだ。
「王子。あなたは私を追い抜くほどのスピードで成長している。うれしいです王子。だけど、まだ早い。今は踏み台として……一度王子を殺します!」
 始まる戦い。当たり前のことであるが、ファイの方が力量的に数段上。格が違うというもので、戦闘的には圧倒的な差がある。だが、シャロンは食らいつくのだ。自分がステップアップする何かをつかみ取らなければならない。
「どうしました王子!? まだ私は一撃も食らっていませんよ!?」
 楽しそうな、無邪気な子どものような顔で拳を振るうファイ。これに対し、シャロンは剣で拳を防ぐのが精一杯。言葉を返す余裕もない。
 そして、当然体力の消耗は激しくなる。すると生まれるもの、『隙』
 最強の格闘家として名をはせているファイが、それを見逃すはずがない。ちゅうちょなくクリーンヒットで拳をぶつける。
「ガッ……!」
 言葉にならない言葉を発し、吹っ飛ぶシャロン。とても痛々しい光景である。
 だが、これはシャロンが望んだこと。仕方ないのだ。
(これがファイ……違いすぎる)
 心の中で弱音をはくシャロン。だが、シャロンは分かっている。これは弱音をはいたままで終わっていいものではない。そういう戦い。
 シャロンは薄れゆく意識の中で、ひとつひとつ思い出す。戦いの基礎をひとつひとつ……。
「まずは深呼吸だ。これで気を集中しなおせる」
 地に倒れながらの深呼吸。少し地の味がした。
「そしてイメージ」
 立ち上がり、剣を構え、ファイに立ち向かうイメージ。
「最後に……実行!」
 イメージ通り。かっこいいものじゃないけれど、フラフラで倒れそうだけど、シャロンは立ち上がる。そして、フルフル震える手で剣を構えるのだ。
 これには会場も盛り上がる。そして、ファイも二コリとにやける。
「そうです王子。よくできました!」
 言ってることとは裏腹に、ファイはゆっくりとシャロンに近づき、拳を浴びせようとしている。また、地に沈めるつもりだ。
 しかし、それだけじゃ駄目だ。ただ地に倒れるだけじゃ、何かインパクトある手ごたえをつかまないと。シャロンは覚悟を決める。
 深呼吸。目線をファイから離さぬ様に、気を確かにもつように深呼吸。
 そしてイメージ。ファイの攻撃よりも先に剣で斬りつけ、逆転。
 最後に実行。それにはまず……
『動け』
 本能と体がシンクロする。本能が動いたのか体が動いたのかは分からない。だが、確実な手ごたえを感じた。自分の剣からはファイの頬から流れ落ちる血がまとわりつく。
 剣はかわされてしまったけど、かすりはした。ファイの拳は自分の体に当たってしまったけど、ファイは驚いている。自分は倒れてしまうけど、なんだか悪い気はしない。

 試合は終了した。表向きには、ファイの圧勝で幕を閉じたこのトーナメント。だが、実際はかなり身のある内容だったとシャロンもファイも感じている。
「ねえファイ」
「何ですか王子」
「ファイって、僕が物心つく前から、ずっと格闘と向き合ってきたんだね」
「なぜそう思うのです?」
「闘気に混ざってたから。格闘に対する、はるかに広大な思いが混ざってた」
「なんだか照れますね」
 顔を赤らめ、そう言うファイ。
「本当のことさ。だって、ファイはこんなに強いもの。格闘と向き合ってきたたまものだよ」
「でも、どうやら私もうかうかしていられないところまできています。今日の王子の最後の攻撃には、格闘に対するすべてが詰まっていました。私が格闘で見いだした境地をすべて追い越されたような気がしましたよ。それに、ちゃんと私が教えた基礎も守っていましたしね。そんなことが短期間で出来る王子の才能。正直嫉妬します」
「……」
 逆に照れ返されてしまったシャロン。そこからもう何も話すことなく、疲れを癒やすことなく眠りについた。
 この日、シャロンにとってもファイにとっても得たものはとても多い。この調子で成長を続ければ、もしかすると、魔族にとって驚異的な存在になるかもしれない。



             もしよろしければ投票お願いします


             こちらも投票お願いします


             ネット小説ランキングに投票お願いします。


             

30、私たちの未来 

「ようやく……ようやく完成した。私の、いや、私たちの……未来が!」
 喜びのあまり、思わず肩を振るわせるキリク。キリクは長い時を使い『私たちの未来』を完成させた。
 しかし、この出来事をヒドラーに報告しなければならない。キリクは、喜びもほどほどに、ヒドラーの間へと足を向ける。
「ふふふ。まぁ、待っていてくれ。もうすぐお前をデビューさせてやる」
 高笑いをしながらヒドラーの間へと足を進める。その道のり、キリクは常ににやにやとしていたという。
 だが、ヒドラーの前でそんな姿を見せるわけにもいかない。マジックのように平然とした顔に戻す。
「ヒドラー様。ついに完成いたしました」
 キリクが深々と頭を下げ、ヒドラーにそう伝える。キリクにしては珍しく低姿勢が続く。
 この報告に、ヒドラーはニヤニヤした表情を隠せない。なんせ、長い時を待ったのだ。もう、自分の一生も長くないというのに、長い時を……。
「待った! 待ったぞキリクよ! さぁ、早くわしに披露せい! 早く。早く!」
 早く早くとがっつくヒドラー。しかし、キリクはそんながっつきにも動揺を見せずに冷静に構えている。
「少々お待ち下さい。私は余韻に浸りたいのです」
 ヒドラーには少々理解しがたいこの言葉。
「余韻にひたっとる場合かキリク! 早くするのじゃ! 早くアンドロイドどもに制裁を加えてやらんとならんのだぞ!」
 余韻に浸っているキリクを怒鳴りつけるヒドラー。これに対し、キリクは大きなため息をついた。そして、やれやれといった表情で手を真上に伸ばし、ひとつ指を鳴らした。
「さぁ、もう呼んでしまいましたよ。せっかく私が余韻に浸っている時間だけでも、あなたに時間を与えようと思っていたのに……。あなたは自らの手で運命を早めた」
 ヒドラーはあぜんとした。生まれて初めてあっ気に取られたかもしれない。そして、ヒドラーは考えた。今の自分の状況を、今のキリクの状況を……。そして、ひとつの結論が98%明確になる。そして、後の2%は次の質問で明らかになる。
「キリク。貴様……何のマネじゃ?」
 緊迫したヒドラーから漏れるその質問に、キリクはクスッとした笑いを浮かべながら答える。
「何のマネもどんなマネもない。すべては現状どおり。そういうことです」
 ヒドラーは確信した。もう、これは紛れもない100%。もう、ちゅうちょすることはない。ヒドラーは叫びながら、常に自分が肌身離さず持っている非常用のスイッチを手に持ち、押す。
「緊急じゃ! 早くわしを守れぇ! そして、裏切り者……裏切り者のキリクを殺すのじゃあ!」
 ヒドラーのこの言葉により、『コンセクト』が誇る、ヒドラーお墨付きの腕利きガードマンたちがヒドラーの間へ駆けつけた。そして、キリクを殺そうと一斉に銃を構える。
 この状況に、ヒドラーはまた笑みを浮かべた。いつだって生き残るのは自分。自分に逆らう者はみんな死ぬ。これはもう確実なのだから。
 だが、対するキリクは焦る気持ちなど微じんもないようで、両手を挙げて降参するどころか、ポケットに手を突っ込んで余裕そうにしている。そして、冷静に言葉を発するのだ。
「かっこつけて構えているのはよくないな。殺すなら早く撃てばいい。手遅れになる前に撃てばいい。それがガードマンというものではないのかね? 殺す直前の余韻に浸るような素人集団でもあるまい?」
 この言葉に、ガードマンたちが触発される。怒りに任せ、同時に銃弾を放った。だが、キリクからみると、こんなものは無に等しいものに感じた。だって、自分の未来はすぐそこに……本当にすぐ、そこに。
「言っただろう? かっこつけて構えているからこうなったのだ。もう、手遅れだよ」
 キリクに銃弾は届かない。キリクの目の前にはキリクの未来がいる。キリクの未来はキリクを守った。銃弾をすべて防ぎきり、未来をつないだ。私たちの未来。
「これが本当の守り方だよ君たち。守るというものは、守る以外になにも求めちゃいけないんだ。分かるかね? 分かったなら授業料としてとりあえず死ぬべきだ。自分のみのために生きる人間など死ねばいい。それを教えてやりなさいグレイ。私たちの未来……グレイ!」
 キリクのその言葉でグレイは動き出す。そして、瞬く間の間にガードマンに死が訪れる。その速さは、ヒドラーはもちろんのこと、キリクにも分からない。表現するならば突風。突風が吹いたように、ヒドラーの間は赤く染まる。
 残すはヒドラーただ一人のみ。さすがにヒドラーもこの状況には混乱を隠せない。
「だれか! だれかおらんか!? だれかわしを守るのじゃあああ!」
 だが、だれも現れない。もう、ヒドラーを守る部下はだれ一人……。
「無駄だよ。みんな、俺が殺しちまった。サイボーグになっても結局……殺ることに変わりはねえってことか」
 グレイはサイボーグ。もともとは、世界に浸透した大量殺人犯で、その身体能力は並みの人間ではない。だが、捕まった理由は自首。まぁ、それでも判決は死刑。
 だが、そんなグレイに最後の望み。キリクに私たちの未来になろうと誘われ、同意した。これで死ななくてすむ。これでもう人を殺さなくてすむ。だが、結局おこなっていることは殺人。自分はもう、人を殺すむなしさを知ったはずなのに……。やはり殺せてしまう自分に心が痛む。
「なぜじゃ……なぜじゃキリク!? このサイボーグはわしらの希望ではなかったのか!? さっきから私たちの未来と言っているが、その未来はわしとお前ではなかったのか!?」
 ヒドラーの死の間際の命乞い。キリクは、また大きくため息をついた。そして、汚物でも見るような眼でヒドラーの質問に答える。
「なぜ私があなたと未来を見なければならない。ふざけた質問だと思わないかね? 私たち生物はこの世に生を受け、死を迎えるまで生きる。当たり前のことだ。だが、生き方を間違っている生物が多すぎる。生物は自分のみのために時間を使う。私から言わせれば、それは間違っている。私たちは、未来……次の世代へつながる生き方をしなければならない。未来のために時間を使う。これが当たり前だというのに、生物は当たり前も分からない。そういう意味ではアドルフは立派だったな。自分の未来を送り出すスタンスは理解できなかったが、きっとそれもひとつの未来へのつなげ方なのだろう」
 まだまだキリクはしゃべる。これだけ喋るキリクを見るのはグレイも初めてのようで、あぜんとしながらキリクを見ている。いや、むしろ引いている。
「歴代の偉人を見てみろ。科学者、開発者、研究者……みんな、未来のために時間を使っている。これが当たり前なのだ。なのに、生物はこの者たちを、すごい。偉大だと崇める。馬鹿な話だ。だから私が、いや私たちが示そうと思う。私とグレイ。未来の希望になろうと思うのだよ」
「いや……俺、今まで人殺ししかしたことねえって。どんだけ殺伐とした希望だよ……」
 どうやらグレイはかなりのひねくれ者のようで、空気も読まず、ひねくれたツッコミを入れる。まぁ、これにはキリクもあまり好ましくなかったようで、グレイを少しにらみつけながら、鮮やかに無視する。
「そのためには、間違いの長であるあなたが世界を牛耳っている現状を壊さなければならない。なので、今から死んでもらう。でも、それは仕方のないことなのだよ。ただ、世界が世代交代を望んだだけだ。世界単位の世代交代をね」
「まっ……待てキリク! お前の望むものなら何でもやる! 何でもだぞ!?」
 これが本当に最後に最後の命乞い。やはりキリクはため息をつく。そして、冷静にグレイに命令を伝える。
「グレイ。殺れ」
 こうして、ヒドラーはこの世を去った。この瞬間。『コンセクト』に住む人間はキリクのみ。自動的に世界を牛耳る者はキリクとなった。
 キリクは突き進む。自分が望む未来のため。自分とグレイで世界に未来の希望を示すため。キリクは突き進む。



             もしよろしければ投票お願いします


             こちらも投票お願いします


             ネット小説ランキングに投票お願いします。


             

リンクフリーです!! お気軽にどうぞ。 banner QLOOKアクセス解析
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。